前述した通り、韓国はこの日記をもって「強制連行」の確証を得たと思っている。しかし、この日記には慰安婦の募集に関する記述が一切ない。残っていない期間の部分で触れているのかもしれないが、私には慰安所の関係者や慰安婦たちにとって慰安婦の応募の動機や募集の過程が関心事ではなかったのではないかと思われる。いずれにせよ、この日記ではそうした慰安婦の連行などにはまったく触れられていない。強制連行につながる言葉すらないのである。
日記に描かれる慰安所は、軍の管制下にあり軍との関わりは密接ではあるものの、軍の中にあるものなどではない。そこに見えてくるのは、民間人が営業する、軍人を上客とした事業である。師団からの移転命令に「慰安婦たちが反対」したため移転しなかったとの記述もあり、慰安所の譲渡や売買すら可能だった。つまり、そこで働く慰安婦が“従軍”したなどという根拠などどこにもない。
それは安氏もわかっていたはずである。しかし彼は、「日記で描かれた前の段階で強制連行があった可能性があり、大局的に見ると軍事動員の組織と考えられる」と憶測で書籍の解説部分に記した。韓国では、この部分だけがクローズアップされ、一人歩きしてしまったのだ。