「独眼竜政宗」は歴代最高視聴率を記録((C)NHK)
磯田:当時高校生だった私にも印象的でした。後に歴史家になって、5歳の政宗が不動明王を見て「自分もこうありたい」と言った逸話は創作ではなく、『仙台武鑑』や『木村宇右衛門覚書』という史料に取材した台本だと気付き、調査の深さに驚いたのを覚えています。
もっと驚いたのは、勝さん演じる秀吉と政宗の腹心・鬼庭綱元(村田雄浩)が将棋を指すシーン。秀吉は王将と角、歩しか持たずに「その代わりに自分だけ三手進めるが、どうじゃ」ともちかけるんですね。すると秀吉は三手で綱元の玉を取ってしまう。史実でも鬼庭は秀吉と賭け将棋や碁をやっています。
このエピソードは、他の人間が一つの行動を起こす間に2回も3回も行動して敵を圧倒した秀吉という男の本質が見事に切り取られている。当時の僕はこれをフィクションだと思い込んでいたんですが、実は秀吉の将棋の打ち方も史料があったんです。歴史家でもよほど深く調べないと行き着かない史実が、エンターテインメントとして見事に物語に組み込まれている。ジェームス先生はどこまで調べているんだと舌を巻きました。
三木:いや、僕は特に歴史に詳しいわけではないよ。『独眼竜』は、私にとって初めての歴史物だったしね。あの時は脚本を書くにあたって、スタッフが丹念に史料を調べて渡してくれた。電話帳何冊分の厚みがあったかわからない。
春日:あの頃のNHKのスタッフにはとんでもない教養人がたくさんいました。事前に史実を調べつくしてから制作に臨んでいます。たとえば演出家の吉村芳之さんを取材させていただいたことがあるんですが、吉村さんは準備段階で政宗の重臣・伊達成実の著した『成実記』を自ら現代語訳してジェームスさんに渡したそうです。
磯田:NHKにはそんな人がいたんですか! なるほど、物語に深みが出るわけだ。ただし、先ほどの将棋のエピソードは『成実記』だけでは無理。他にも様々な史料にあたっていると思います。
ジェームス先生の脚本はかなり史実に忠実なんです。そこに先生一流の解釈が加わって素晴らしいストーリーになっている。政宗が不動明王に憧れていた史実を、隻眼のコンプレックスと結びつけて物語にしたのはこの作品が初めてです。