呉さんは、自分は何者なのかと悩み続けた。自宅では大好きな祖父母が日本語を話しながら、日本時代の思い出を大切にして過ごしている。高校卒業後、呉さんは大好きな漫画で生きていくため台湾の漫画系出版社やゲーム会社でキャリアを積んだ。しかし、自分の描いた作品に満足は得られなかった。
作品づくりに悩んだ彼は、再度幼少期から今までの人生を振り返り、台湾の歴史で隠された部分を独自に解明していこうと決心する。その中で、やはり強烈な印象があったのは祖父母が自分に語ってくれた日本統治時代のことだった。
幼少期の思い出の中に鳴り響くのは、祖父母が大好きだった台湾歌謡「望春風」とその日本語軍歌版の「大地は招く」だ。曲とともに、美しかった昔の台湾の街並みや風景が走馬灯のように浮かんでくる。それらを作品化したのが今回掲載した「台湾維新」シリーズだ。
「台湾維新」は日本統治が始まった1895年から、台湾発展に貢献した日本人と台湾人の姿を、彼なりの時代感を織り交ぜつつ独特のタッチで描いている。日本人が知らない、台湾で生きた日本人が数多く描かれてもいる。現在、46歳の彼が描く「大日本帝国台湾」の姿からは、日本が失った精神性すら感じられる。
呉さんら、台湾人アイデンティティを追求する者の多くは、「哈日」から「懐日」を経た「知日派」として、日本時代を冷静に見つめている。