志ん生の『しじみ売り』だと、次郎吉は彼らを救うため、手下を身代わりに立てて自首させるのだが、たい平はそこに一捻り加えた。次郎吉が自ら名乗って出ようとすると、病床にある熊という弟分の男がそれを押しとどめ、「ここで死ぬか牢屋で死ぬかの違いだけだ、誰かの役に立って死にたい」と身代わりを買って出る。これは良い工夫だ。素直に「いい話だ」と思える。
2席目に演じたのは『替り目』。去年8月にこの会でネタ下ろしした演目だが、その後全国で演り続ける中で大きく変化したという。「その変わりようを聴いてほしい」というのが、これを演じた理由ということで、まずは人力車の件がないことに驚く。なんと時代設定は現代だ。酔っぱらった恐妻家の亭主がなかなか家に入ろうとせず、グダグダと独白を続けるのだが、これが堪らなく可笑しい。時事ネタ満載、次から次へとギャグが飛び出す。『替り目』という容れ物を借りた漫談みたいだ。落語初心者も問答無用で笑わせる爆笑編。「全国区」としての役割を熟知するたい平ならではの『替り目』に進化していた。さすがだ。
●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『噺は生きている』など著書多数。
※週刊ポスト2018年6月1日号