広告が表示されないと運営資金が確保できないため、サイト管理人らは物販や寄付を募りサイト存続を試みているようだが、その段階になっても結局、誰も顔や素性を明かそうとしない。資金を募る段になっても隠れたままでいようとするのは、「後ろめたさ」を感じていると表明しているようなものだ。

 ヘイトスピーチを繰り返すようなサイト運営者は、少なからず「後ろめたさ」を感じているはずだと語ってくれたのは、都内にある編集プロダクションに勤務していた男性・杉野芳文さん(仮名・29歳)だ。

「雑誌不況で仕事がなくなり、ネット記事の執筆、情報サイトの運営などを請け負うようになりましたが……」(杉野さん)

 杉野さんが執筆していたのは、驚くべきことに「女性の健康や生理現象」に関するサイトに掲載される文章だった。女性ユーザーからの悩みに、女医や女性識者らが「回答する」といった体で、実際に回答内容を考え、執筆していたのは杉野さん。情報の真偽が疑わしい健康系の情報サイト、アフィリエイトサイトが問題視され、一斉に閉鎖された問題にも一枚噛んでいたというのだ。またほかにも、競馬の予想サイト、宝くじの予想サイト、薄毛や肥満といったキーワードで検索すれば上位にヒットする情報サイトなど、合わせて十数のサイトの記事を執筆・運営もしていた。これらは、杉野さんの所属したプロダクションの上司の指示によって行われていたと明かす。さらに……

「極端な政治思想の持ち主たちに受けるようなまとめサイトや情報サイトの運営も行っていました。ちょうど2014年ごろです。法人としてやるには実入りが少なく、今はほとんど手を引いているようですが、これらのサイト運営のノウハウは、情報商材として出回るようになりました。情報商材には、まとめサイトの運営方法だけではなく、ユーチューブやニコニコ動画で動画を配信することでカネが得られる方法も書いてありました。今現在、動画サイト上に適当な音楽をバックに文字だけが流れるような動画が溢れていますが、あれも情報商材を購入し真に受けた人々がやっているのです」(杉野さん)

 杉野さんはあまりのバカバカしさにプロダクションを退職したが、運営や執筆をしていたいずれのサイトにも、杉野さんや同プロダクション名の記載はなかった。その理由を「恥ずかしいし、後ろめたいからです」と断言する。こうした現実を知ってか知らずか、筆者がウォッチしている右派系言論人が、SNS上で性懲りもなく前述の「アノニマスポスト」や、それに類似するまとめサイト、情報サイトへの記事リンクを共有し、そこには多数のコメントが寄せられていた。

 リンクを共有する言論人には、有名作家や政治を扱う情報バラエティ番組でコメンテーターをするようなエコノミストや評論家もいるため、「あれほどの有名言論人がリンクするなら、きっと確かな情報に違いない」と鵜呑みにする人が少なくない。そして、コメントには、非常識なヘイトスピーチが目立った。

「朝鮮人とは関わらないほうが良いですね」
「素晴らしい記事。拡散します」
「我々日本人と朝鮮人、中国人は別の生き物。彼らを排除しなければ」

 筆者は保守思想の持ち主であり、ネット上でも保守的な発言、発信をしてきたので右翼であり、「ネット右翼」でもあると自分では思っている。ネット上で右翼を「ネトウヨ」と呼ぶときは蔑視的なものだとはわかっていてもなお、ネット右翼と自認するほかない。しかし残念なことに、実際にヘイトの垂れ流しや扇動をしているのは、カネが目的というだけの者たちだ。そんな人たちに振り回され、取り込まれ、カルト的な流れに乗っていることに気が付かない人々が、残念ながら、保守派を名乗る人々の中に存在する。

 さらに付け加えておけば、ネット上では「ビジウヨ」とも揶揄される、ビジネス目的で“右翼を名乗る”人々、またその反対の立場を名乗る人々がいることも忘れてはならない。彼らは巧妙に、ときに大胆に、民衆を煽る。前述の杉野さんが勤めていた編集プロダクションには、左派寄りとして知られるジャーナリストらが出入りし、一緒になって非合法ギャンブル情報にまつわるアフィリエイトサイトやニュースサイトを運営していた。

「午前中に自民党を罵倒する記事を書き、午後には自民党を持ち上げる記事を書く。朝三暮四などではなく、単純にネタになるから、カネの為です」(杉野さん)

 保守派だろうが革新派だろうが、思想を持つことは健全だ。だが、敵視するあまりにそれを中傷するのは、ゆがんだ行為だと気づくべきだ。そのヘイトスピーチは、信念もなく金儲けのためにねつ造もいとわない者たちによって流された情報や、真偽を確認する手間を省いた有名人が安易に紹介した“真実”に影響された末、生み出されていることに早く気が付くべきなのだ。

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