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国からの規制と自然塩存続運動を経た「伯方の塩」のいま

伯方塩業大三島工場のロビーには100kgサイズの「伯方の塩」が展示されている

 瀬戸内海沿岸に位置し、高縄半島の北東部に位置する愛媛県今治市。タオルの名産地だが、江戸時代から塩田で栄えた場所でもある。

 最近では、全長69.9kmからなるサイクリングロードを併設した『しまなみ海道』の発着地点としても親しまれている今治市。この海道は6つの島を結んでいるが、特に伯方島と大三島は製塩業が盛んだ。

 そもそも日本は、地質的に岩塩や湖塩などの自然の力でできた塩がとれず、塩づくりに有利な太陽熱や風力などの条件にも恵まれていないことから、先人たちは工夫を凝らして海水から塩をつくる製法を発展させてきた。

 そんな中、瀬戸内海に面したこの地域は、雨が少ないことから、塩田をつくるのに適しており、製塩業が発達した。

 ところが、1971年に施行された塩業近代化臨時措置法により、塩づくりが化学的な製法に転換され、昔ながらの塩づくりが自由にできなくなってしまう。

「それに伴い塩田も完全に廃止になりましたが、危機感を募らせた松山市民の有志が立ち上がり、伯方島の塩田を1か所でも残したいと、自然塩存続運動を起こしたのです」(伯方塩業大三島工場広報の赤瀬秀明さん・以下同)

 各方面から集めた5万人の署名を国会、各省庁へと提出。塩田を残すことは叶わなかったが、1973年には、専売公社が輸入した天日塩田塩を使用して再生する方法に限り、塩の製造許可が下りる。これが「伯方の塩」の始まりだ。

「今でも塩田は、塩の歴史の象徴として、同社の大三島工場内に再現され、稼働しています(10月まで工事中)。その後、1997年に先の法律が廃止となり、日本の海水から直接塩をつくれるようになりました。とはいえ、日本では岩塩など自然の力でできた塩はとれないので、今でもオーストラリア、または、メキシコから原料となる天日塩を輸入し、日本の海水で溶かし、ろ過して、釜で煮詰め、屋内で自然乾燥させています。1日にできる塩の量は約70t。全工程を含めると約1週間で完成します」

 見学ツアーに参加すれば、同工場の見学通路から、塩が溶解されるところや、自然乾燥される光景などの製造工程が約20分で見られるため、観光スポットとしても人気だ。

「塩には人間が生きていくために必要なナトリウムが含まれています。でも、海水からたくさんとれるものではありません。だからこそ、化学成分を一切使わず、不純物が少なくて、海水中のにがり風味が適度に残っている、おいしい塩をとっていただきたいと思っています」

※女性セブン2018年8月9日号

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