だが、秋丸機関につどった経済学者たちも、沈黙をしいられたわけではない。日本の国力が圧倒的におとることを、何度となく当時の総合雑誌でのべている。機関の報告書に書いたようなことを、公表してもいた。また、軍もそれを、とくにとがめてはいない。
その点に気づいた著者は、軍による焚書という通説をうたがいだす。そして、つきとめた。秋丸機関の研究者には、弾圧をこうむった者もいる。しかし、それも我彼の経済格差をあばきたてたからではない。左翼的な前歴が一部であやしまれ、軍としても対処せざるをえなかったせいだ、と。
日本の国力は、とうていアメリカにおよばない。軍はそれを知悉し、また有識者の多くも気づいていることを知りつつ、戦端をひらいていた。いわば窮鼠が猫をかんだのだが、その過程も分析されており、読後感はたいへんせつない。
※週刊ポスト2018年8月10日号