だとすれば、実は核アレルギーに代表される感情的反核論の世界的広がりこそが核均衡論の基礎に必要なのである。『ゲン』がその重要な一翼を担っている。
そう書いたのだが、共産党系のマンガ評論家紙屋高雪は、四月に出た『マンガの「超」リアリズム』で、「『ゲン』を高く評価するはずの呉は、驚くべきことに」「核均衡論を肯定的に紹介」と批判する。この批判の初出誌は民主教育研究所の「人間と教育」である。
いや、まあ、なんと言おうか。この人たちは、ねぇ。
実は、核均衡論は完璧な理論ではない。そもそもこれは「後で気づいた理論」である。この理論に従って米ソが核開発に狂奔したわけではない。これも歴史の皮肉。
●くれ・ともふさ/1946年生まれ。日本マンガ学会前会長。著書に『バカにつける薬』『つぎはぎ仏教入門』など多数。この連載をまとめた新刊『日本衆愚社会』が発売中。
※週刊ポスト2018年8月17・24日号