芸能

さくらももこは清少納言、向田邦子のハイブリッドだった

さくらももこで浮かぶものは(イラスト/ヨシムラヒロム)

 国民的アニメのひとつと言われる『ちびまる子ちゃん』の原作者で、アニメの脚本も手がけていたさくらももこさんが、53歳の若さで亡くなった。訃報のおしらせが公式サイトに掲載されると、SNSでは作品や作者にまつわる思い出を多くの人が語り合う状態が続いている。ストレートな恋愛漫画が中心だった少女漫画誌『りぼん』の異色作として連載されていた『ちびまる子ちゃん』を楽しみにしていたイラストレーターでコラムニストのヨシムラヒロム氏が、自分のツイートをきっかけとして広がったSNSでの想いの連鎖を振り返る。

 * * *
 8月27日の夜、僕は集英社のセブンティーン編集部にいた。そこで働く友人Tと雑談、至極くだらないことをトーク。1時間ほど話したのちTのiPhoneが震えた。対面にいるコチラからもニュースサイトの緊急速報が届いたことが分かる。iPhoneを手にしたTは僕にふと呟いた。

「さくらももこさん、亡くなったって……」

 ん、なにを言っているんだろう。最初は全く理解ができなかった。さくらももこは亡くなるような年齢ではない。けど、Tがウソをつくはずもない。一拍置き「けど、事故の可能性もあるよなぁ」なんて思う。

 こんな時はなにも考えられないので、ただぼんやりと天井のシミを見つめる。著名人が亡くなり、ショックを受けたのは初めての経験だった。それはなまじ付き合っていない親戚が亡くなったときより大きい。さくらももこに会ったことはない。しかし、作品との付き合いは物心ついた時からとかなり長い。

 小学生の頃、姉の部屋にあった『りぼん』を勝手に読むのが好きだった。見つかったら怒られる、そんな危険を冒してまで読みたかったのが『ちびまる子ちゃん』。分厚い雑誌をめくる、他の漫画作品は目もくれない。

 安いザラ紙に描かれるのは、清水市に住む小学3年生の平凡な日常。普段、愛読している少年漫画とは全く異なる世界観。ドラゴンも妖怪も特殊能力も登場しないが、『ちびまる子ちゃん』は小学生男子をも熱狂させた。

話はセブンティーン編集部に戻る。

 Tは「乳がんだって」と言った。さくらももこが活躍した『りぼん』は集英社の漫画雑誌。その社内で亡くなったことを聞くとは……。

 偶然だが、そんな些細なことも感傷を増幅させる。1980年代生まれの人は、さくらももこの作品ともに人生を歩んできた。こんなことを言っても過言ではないほどに、多大な影響力を持った作家だった。基本的なモノの考え方自体がさくらももこイズムに染まっている人も多いハズ、僕もその1人だ。そして悲しみを抱えたまま編集部を1人後にする。

 喫茶店にはいり、タバコを吸う。口から出る煙を見て、思い出すのは、さくらももことタバコの関係性。

 さくらももこは愛煙家で、自らがタバコを吸い始めた瞬間もエッセイに残していた。また、父親ヒロシの体臭をマイルドセブンの香りと書いていたっけ。さくらももこのタバコ論は、「タバコは百害あって一利なし」というが、タバコを吸っているだけでカッコつくのだから一利はあるというものだった(細かいところ間違っていたらすいません)。

 コーヒーを啜っていると、iPhoneのバイブが鳴り止まない。ツイッターアプリのバッチを見ると20。嫌な予感がする、以前迂闊なことを書いて炎上した経験がある。以降、気をつけているのだが僕は隙が多い人間だ。ほころびが出たのだろうか、と恐る恐るツイッターをひらく。すると想像以上のことが起こっていた。

 いとうせいこうが僕のツイートを引用リツイートしているのだ。

関連キーワード

関連記事

トピックス

ショーンK氏が千葉県君津市で講演会を開くという(かずさFM公式サイトより)
《ショーンKの現在を直撃》フード付きパーカー姿で向かった雑居ビルには「日焼けサロン」「占い」…本人は「私は愛する人間たちと幸せに生きているだけなんです」
NEWSポストセブン
気になる「継投策」(時事通信フォト)
阪神・藤川球児監督に浮上した“継投ベタ”問題 「守護神出身ゆえの焦り」「“炎の10連投”の成功体験」の弊害を指摘するOBも
週刊ポスト
長女が誕生した大谷と真美子さん(アフロ)
《大谷翔平に長女が誕生》真美子さん「出産目前」に1人で訪れた場所 「ゆったり服」で大谷の白ポルシェに乗って
NEWSポストセブン
大阪・夢洲カジノ用地の評価額が「隣接地の3分の1」で「安すぎる」との疑惑 “文書隠蔽”も疑われ「森友学園問題と重なる部分がある」と識者指摘
大阪・夢洲カジノ用地の評価額が「隣接地の3分の1」で「安すぎる」との疑惑 “文書隠蔽”も疑われ「森友学園問題と重なる部分がある」と識者指摘
マネーポストWEB
3月末でNHKを退社し、フリーとなった中川安奈アナ(インスタグラムより)
《“元カレ写真並べる”が注目》元NHK中川安奈アナ、“送別会なし”に「NHK冷たい」の声も それでもNHKの判断が「賢明」と言えるテレビ業界のリスク事情
NEWSポストセブン
九谷焼の窯元「錦山窯」を訪ねられた佳子さま(2025年4月、石川県・小松市。撮影/JMPA)
佳子さまが被災地訪問で見せられた“紀子さま風スーツ”の着こなし 「襟なし×スカート」の淡色セットアップ 
NEWSポストセブン
第一子出産に向け準備を進める真美子さん
【ベビー誕生の大谷翔平・真美子さんに大きな試練】出産後のドジャースは遠征だらけ「真美子さんが孤独を感じ、すれ違いになる懸念」指摘する声
女性セブン
『続・続・最後から二番目の恋』でW主演を務める中井貴一と小泉今日子
なぜ11年ぶり続編『続・続・最後から二番目の恋』は好発進できたのか 小泉今日子と中井貴一、月9ドラマ30年ぶりW主演の“因縁と信頼” 
NEWSポストセブン
大谷と真美子さんの「冬のホーム」が観光地化の危機
《ベイビーが誕生した大谷翔平・真美子さんの“癒しの場所”が…》ハワイの25億円リゾート別荘が早くも“観光地化”する危機
NEWSポストセブン
公然わいせつで摘発された大阪のストリップ「東洋ショー劇場」が営業再開(右・Instagramより)
《大阪万博・浄化作戦の裏で…》摘発されたストリップ「天満東洋ショー劇場」が“はいてないように見えるパンツ”で対策 地元は「ストリップは芸術。『劇場を守る会』結成」
NEWSポストセブン
同僚に薬物を持ったとして元琉球放送アナウンサーの大坪彩織被告が逮捕された(時事通信フォト/HPより(現在は削除済み)
同僚アナに薬を盛った沖縄の大坪彩織元アナ(24)の“執念深い犯行” 地元メディア関係者が「“ちむひじるぅ(冷たい)”なん じゃないか」と呟いたワケ《傷害罪で起訴》
NEWSポストセブン
中村七之助の熱愛が発覚
《結婚願望ナシの中村七之助がゴールイン》ナンバーワン元芸妓との入籍を決断した背景に“実母の終活”
NEWSポストセブン