佐藤優氏と片山杜秀氏(右) 撮影/太田真三

片山:独裁者一人では国を統治できませんからね。ここでのポイントは、従来の権力構造を壊すことなく、都合のよい人たちを登用して権力を掌握したことです。ナチスは官僚制を破壊したわけでも、ワイマール憲法を細かく作り直したのでもなかった。ナチ党がワイマール共和国の国家や州の政府機構に寄生して、上層の幹部をヒトラーに忠誠を尽くす同志たちに挿げ替えたわけでしょう。

佐藤:国家を乗っ取り権力構造を変えずに権限だけを奪ってしまったわけですね。

片山:ナチスの仕掛けをまね、憲法も国家機構の基本もいじらずに、独裁的な強力な政党の力で、行政と立法と軍を束ねようとしたのが日本の大政翼賛会です。ただし、日本には天皇がいるからヒトラーは必要ない――そうした日本的政治原理によって、大政翼賛会は骨抜きにされたかたちでしか実現しなかったというのです。

佐藤:戦前の日本は、資源に乏しい「持たざる国」でした。ヨーロッパやアメリカに対抗するために国を束ねる必要があった。日本で権力の中枢にいたのが軍人です。彼らの立場は、各国の官僚とほぼ変わらないため、ここでは官僚組織と捉えます。その最大の勢力たる旧陸軍が日本のファシズムを推し進めようとしました。

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