片山:戦前日本の国家機構を見るとき、天皇主権ですから天皇に近い者が強いという理屈が成り立つ。議会は貴族院と衆議院の二院制でしたが、貴族院議員は皇族男子や勅選(天皇が選ぶ)だけれども、衆議院は民選ですから、議会の半分は天皇から遠い。
政府は、大臣も高級官僚も形式的には天皇に任命されるので近いのですが、行政の縦割りがきついので、どこかの省庁が突出して強くなれない。そうすると残るのは帝国陸海軍。天皇を最高指揮官とする「天皇の軍隊」。特に陸軍は人数も多く全国隅々まで展開している。陸軍がいちばん強くなるのが道理です。
軍の不満は仮想敵国に対する国力不足ですね。日本がもっと豊かにならないと米英ソとは戦争できない。
【PROFILE】かたやま・もりひで/1963年生まれ。慶應大学法学部教授。思想史研究者。慶應大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学。『未完のファシズム』で司馬遼太郎賞受賞。近著に『「五箇条の誓文」で解く日本史』。
【PROFILE】さとう・まさる/1960年生まれ。1985年、同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。主な著書に『国家の罠』『自壊する帝国』など。片山杜秀氏との本誌対談をまとめた『平成史』が発売中。
※SAPIO2018年9・10月号