筆者らの調べでは、医学部卒業生は出身大学の近くで就職する「地産地消」の傾向が強いことがわかった。医学部が多い地域ほど医師が多くなる。就職後に地域をまたいで移動する医師もいるが、それは一部であり影響は限定的だ。
西日本に医学部が偏在しているのは、明治政府を仕切ったのが西国雄藩だったことが関係している。鹿児島大や九州大など歴史が古い九州の国立大学医学部は、幕藩体制下の教育機関である藩校を前身としている。一方、戊辰戦争の戦後処理により、佐幕派の東北・関東周辺諸藩は武装解除させられると同時に、藩校も廃止の憂き目に遭った。
さらに1970年代に進められた「一県一医大構想」もその状況に拍車をかけた。戊辰戦争で勝者となった西国雄藩は、薩摩藩=鹿児島県、土佐藩=高知県のようにそのまま独立を維持したが、敗者は11の藩が合わさった福島県のように、周辺の諸藩と合併させられた。そのため、人口が少ない西日本の県にも医学部がつくられたというわけだ。
医療の東西格差の背景にはこうした賊軍差別があるのだ。
●かみ・まさひろ/1968年兵庫県生まれ。1993年、東京大学医学部卒業。1999年、同大学大学院医学系研究科博士課程修了。東京大学医科学研究所特任教授などを経て2016年よりNPO法人医療ガバナンス研究所を立ち上げ、研究活動を続けている。『日本の医療格差は9倍』(光文社新書)、『病院は東京から破綻する』(朝日新聞出版)など著書多数。
※SAPIO2018年9・10月号