11月3、4日のキックオフイベントでは、お座敷列車の運行を予定している。ほかにも、グッズや地元の名産品などの販売に力を入れるなど、「東京アドベンチャーライン」を盛り上げる。これら一連の取り組みの成否が、「東京アドベンチャーライン」という愛称を定着させる鍵になる。
「東京アドベンチャーライン」が住民や利用者に定着するか否かは今後の取り組み次第だろう。自治体・鉄道会社・住民が一丸となれば、愛称が正式名称以上に浸透することはある。その最たる例が、「宇都宮線」だ。
東北本線は東京駅と盛岡駅を結ぶ大幹線だが、東京都の上野駅と栃木県の黒磯駅の区間は「宇都宮線」という愛称で呼ばれる。栃木県県土整備部交通政策課の担当者も「沿線住民や自治体、利用者から『宇都宮線』の愛称に疑義を呈する声は聞いたことがありません。『宇都宮線』という愛称は完全に定着しています」と口にする。
「宇都宮線」という愛称は、栃木県の渡辺文雄知事(当時)がJR東日本に要望した成果だと言われている。1990年から使用が開始された路線愛称なので、最近になってつけられた愛称とは一線を画す。しかし、宇都宮線が住民・利用者に浸透するまでには栃木県をはじめとする関係機関の地道な努力があったことは想像に難くない。
「毎年、栃木県は宇都宮市や小山市、日光市などと連名でJR大宮支社と高崎支社、東武鉄道に要望書を提出しています。要望書には、利便性向上のために増便や始発・終発時間の繰り上げおよび繰り下げといった内容を盛り込んでいます。県庁には、2008年以降の要望書までしか残っていません。そのため、当時の詳しい経緯はわかりませんが、『宇都宮線』という愛称をつけようという動きは、そうした流れから出てきたと思われます」(同)
栃木県の悲願でもあった「宇都宮線」という愛称は、栃木県や宇都宮市のみならず沿線自治体からも承諾を得て決められた。また、長期にわたり交渉を続け、その過程で鉄道会社とも信頼関係を築いた。
そうした周囲の理解と協力、信頼関係があったからこそ、「宇都宮線」は広く県民から支持された。そして、それは栃木県という枠を越え、埼玉県民や東京都民にも定着している。
今般、路線愛称は百花繚乱気味だが、地元住民・利用者に親しまれる愛称は生まれるだろうか?