15日は「白酒・兼好二人会」で、白酒は『佐々木政談』『短命』、兼好は『犬の目』『付き馬』を演じた。兼好の『付き馬』は「あなたとは気が合う気がする」と客に世辞を言う若い衆の「軽さ」が特徴的。騙す男の妙に説得力のある台詞に戸惑いながらも言いくるめられていく、そのリアクションが実に楽しい。早桶屋から離れたところで若い衆に断片的に聞こえたのが「おじさんが小判でこしらえる」だった、という演出は目からウロコ。このおじさんのトボケたキャラも素敵で、「お通夜で仏様が立ち上がって三味線弾いて、それが上手くて驚いた」「そこに驚くの!?」には爆笑した。
16日の成城は白鳥・白酒二人会「Wホワイト」で、白鳥が『天使がバスで降りた寄席』『アジアそば』、白酒は『氏子中』『付き馬』を演じた。白酒の『付き馬』は騙す男の強引さ、饒舌さが圧倒的。とにかく調子がいい。冒頭で若い衆の呟く「歩み寄ってるのはこちらだけのような気がする」は、これから起こる出来事を暗示する楽しい台詞。翌朝、飯を食って「腹ごなしに」歩きながらの風景描写が独特で、小ネタのギャグ満載なのが白酒の真骨頂だ。
『付き馬』は、騙す男の「調子の良さ」を楽しく聴かせてくれる演者あってこその名作落語。それぞれの持ち味を活かした兼好と白酒の名演が、改めてそれを教えてくれた。
●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『噺は生きている』など著書多数。
※週刊ポスト2018年11月30日号