◆立派なワンディもできる
スタッフが特徴として挙げたことが3つある。1つは、台車と一体型の棺を使用しており、高さを調整できるため、子供や車椅子利用者も故人の顔を見て「最後のお別れ」ができること。もう1つは、独自開発の最先端火葬炉なので、制限なく棺に副葬品を入れられること。そして、火葬炉に棺を送り出す際、スモークが立ち上がるなど「光の演出」がなされること。
「光の演出によって、故人様が明るい世界へ旅立っていかれる感じになります。会葬者様のご心情がずいぶん違ってまいります」(スタッフ)
故人が好んだものや数々の花などを存分に棺に入れ、まばゆい光の世界へと送り出す──。
「祭壇を作って、僧侶を呼んで、この部屋で立派なワンディもできそうですね?」と長谷川さんがスタッフに聞く。ワンディとは、近頃増えている、通夜をしないで告別式のみを行う「一日葬」のことである。
「はい。50席程度まで椅子もご用意できます」(スタッフ)
死亡場所から直接に故人を運び、葬儀も見送りも骨上げもここ1か所で行うことも可能なのだ。告別式と火葬に各1時間、見送りと骨上げで30分。2時間半でおさまる。同規模の一般的な葬儀会館を借りると、会場費だけで30万円。会館から火葬場への運搬費と、火葬料金も別途かかるので、仮にそういった使い方をするなら35万円は高くないのではないか。
次に案内された2階の待合室がまたすごい。長谷川さんが「あと、庭さえあれば、椿山荘ですね」と評し、そのとおりだと思った。例えば故人のお気に入りだったレストランなど、どこからでも料理を持ち込めるという。
「食事をしながら火葬を待つ、あるいは合計2時間半以内なら、収骨を終えてからここで初七日の食事をすることもできます」(スタッフ)
◆最後の最後だけは贅沢に
ともあれ、どんな人が利用しているのだろう。
「故人がご住職とか、お寺関係の方が選ばれますね。お寺で立派なお葬式をして、ここからお送りになられます」とのことだった。長谷川さんが、「お寺さんには見栄っ張りが多いのかもね」と耳打ちした。貴殯館の情報は、お寺関係には届いているが、一般の人にはまだあまり知られていない。「予約でいっぱい」の状態ではないという。
帰路、長谷川さんに、葬儀社としての感想を聞いた。
「あれほど豪華だと、お客さんに勧めがいがあると思いました。ただし、炉前の部屋でのワンディは難しい。もしも失敗したら取り返しがつかないため、経験のないことを試みるのを葬儀社の人間は嫌うからです」
とはいえ、木の祭壇から花で飾る祭壇へ、儀礼的な一般葬から少人数の家族葬へなどと、葬儀の有り様も変化を遂げてきた。新潮流の突破口は開かれてきているのである。