警察の内部事情に詳しい人物、通称・ブラックテリア氏が、関係者の証言から得た警官の日常や刑事の捜査活動などにおける驚くべき真実を明かすシリーズ。今回は、泥棒に自供させる方法を元刑事が詳細に明かす。
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「調べ室(取調室)を禁煙にする時、真っ先に反対したのは捜査三課ですよ」
長年、窃盗犯を担当してきた捜査三課の元刑事は、犯人の落とし方について聞くと、そう切り出した。
「常習犯は浮いてる時間が長いほど、ヤマをたくさん持っている。これを1つ1つ吐かせるには、あめ玉をしゃぶらせないとね」
“浮いてる”とは、刑務所から出て外(シャバ)にいること。つまりシャバの空気を吸っている時間が長いほど、常習犯は犯罪件数を重ねているのだそうだ。
「常習犯には『ドロ刑‐警視庁捜査三課-』(日本テレビ系)の大泥棒みたいに、怪盗○○とか、第○号とか呼び名がついてるやつもいてね。ただ名前がつくやつほどなかなか口を割らない。捕まっても逮捕された案件1件だけで終わり。後は知りませんということになると、せっかくのミケタ星がね…」
1人の泥棒が三桁の数の犯行を自供して上申書を書き、原票が100枚以上になることを「ミケタ星」という。ミケタ星の泥棒を捕まえると、それだけで署は検挙率の月間ノルマ達成、しばらくは左ウチワになれたのだ。
上申書は犯人が犯罪行為の内容などを書くものだが、書かせたからといって原票が切れるわけではない。原票には、被害に遭った人が最寄りの警察署に被害届を出したことで被害を認知する「認知原票」と、検挙した時に切れる「検挙原票」がある。ミケタ星にはこの検挙原票が必要だ。
たとえば認知原票を持つA署とは違うB署の刑事が、犯人を逮捕したとする。犯人が自供し上申書を書くと、刑事は現場となった場所を犯人に案内させ、犯行の様子などを説明させるための「引き当たり」を行う。そこで「こいつの犯行に間違いない」となれば、刑事はA署に被害届をくれるよう申し出る。
ところが自分の署で解決したかったA署は、「なんでそいつの犯行とわかったのか」と尋ねてきて、「はい、そうですか」と簡単には被害届を渡さない。B署が上申書や引き当たりを行い、きちんと確認したことがわかったところで「じゃあしょうがない。持って行っていいよ」ということになる。そこで被害届を受け取って検挙原票を切り、原票として計上して始めて、刑事と署の実績になるのが検挙率の仕組みだ。
「三角のガラスの破り方や雨樋からの侵入の仕方とか、これはあいつの手口だろうというのが、こっちでもわかるんですがね。指紋がない、盗品も残っていない、余罪となる犯行現場がわからないでは、自供させるしかない。吐かせるにはコミュニケーションなんですよ」
刑事と泥棒が仲良くなるのはさすがにドラマの中だけだが、彼らの生い立ちを聞いて「やっているのは悪いことだが、お前だけが悪いわけじゃないな」と同情したり、言い分を聞いてやったりして心を開かせる。“共感”というあめ玉をしゃぶらせるのだ。
だが“本物”のあめ玉はもっと効果的だ。