さらに驚くべきは、学力の向上に必要とされる「努力する性格」も、遺伝と密接に関係すると考えられることだ。
「よく『努力すれば成績は上がる』と考える人が多いですが、実はIQと同じく、人間の性格も遺伝の影響を受ける部分があります。心を穏やかにする『セロトニン』や、興奮させる『ドーパミン』など、脳が発する神経伝達物質がどの程度あるかは、遺伝子レベルの影響が大きいのです。つまり、学力を上げるための努力ができるかどうかも、遺伝の影響を受ける部分があるということ」(安藤さん)
テストのためにコツコツ勉強したり、あきらめることなく問題を解こうとする粘り強さなども、実は遺伝の影響を受けるというのだ。
よりいっそう衝撃的なのは、父親と母親では、子供に受け継がれる遺伝の内容が違うとされる点だ。
心理学者のジェニファー・デルガド氏が2015年に発表した論文によると、攻撃性や衝動という本能は父親から子供に遺伝する一方、記憶や思考、知覚など知性にまつわる遺伝子は母親から子供に遺伝するという。同様の内容は、ラットを用いた実験でも報告されている。
これが確かならば、父親の知性に関係なく、勉強が得意な母親からは勉強の得意な子供が生まれるが、勉強が苦手な母親からは勉強の苦手な子供が生まれることになる。さらに、男の子は女の子より母親の遺伝子の影響が大きくなるという。早稲田大学名誉教授で、生物学者の池田清彦さんはこう話す。
「人間の体は37兆個の細胞でできていて、一つひとつの細胞の核のなかに、遺伝子情報の担い手である染色体が存在する。なかでも知能を司る遺伝子の相当数はX染色体上にあり、女の子は両方の親からX染色体を1つずつ受け継ぎますが、男の子は母親からしかX染色体を受け継がない。つまり、男の子は女の子よりも、母親の知性の遺伝子の影響を強く受けると考えられます」
女性の染色体はXX、男性の染色体はXYから成る。よって、女児であれば父と母の両方からXの染色体を受け継ぐが、男児は父親からYの染色体を受け継ぐため、Xの染色体は母親からしか受け継がない。つまり、「勉強のできる母親×男の子」が最強の組み合わせといえる。
※女性セブン2019年1月1日号