高速道路の無料化についてはたびたび議論がされ、実証実験もされている。では、鉄道の無料化は実現可能なのか。期間限定で無料化を実施した東急池上線と函館市電、オーストラリア・メルボルンの路面電車の例について、ライターの小川裕夫氏がレポートする。
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地域の足を担う鉄道は、インフラとして生活に欠かせないこともあって運賃は低廉に抑えられている。ただでさえ、鉄道は安価な移動手段。それなのに、鉄道事業者は学生には通学定期、高齢者にはシルバーパスなどを発行するといった金銭的な便宜も図っている。
鉄道事業者には“公共の福祉”といった使命が課せられている。そうしたことから、安い運賃で人々が利用でき、鉄道事業者は国や地方自治体から補助金や税金の減免といった優遇処置を受けている。
いくら“公共の福祉”を使命にしていても、公営・民営を問わず、鉄道事業者は利益をあげなければ運行・維持できない。だから、鉄道事業者は乗客から運賃を徴収し、不動産事業や小売業といった副業でも収益をあげようと躍起になる。
しかし、運賃を払わなければ鉄道に乗車できないという固定概念は、いずれ打破されるかもしれない。それを予感させたのが、東急電鉄が2017年10月9日に池上線全線で実施した「一日フリー乗車デー」だ。
東急電鉄は、渋谷駅―横浜駅を走る東横線、渋谷駅―中央林間駅を走る田園都市線、大井町駅―溝の口駅を走る大井町線、目黒駅―日吉駅を走る目黒線などを有している。これらの路線は、平日・土日祝日問わず多くの乗客が利用している。また、沿線人口は決して少なくない。
そうした優良路線を抱える東急の中で、池上線の認知度は低かった。そうした事情から「東急では池上線の認知度を向上させる取り組みをしていますが、『一日フリー乗車デー』は、その第1弾といえます。『一日フリー乗車デー』では、“生活名所 池上線”をキャッチフレーズにして、PRに取り組みました。『一日フリー乗車デー』には、沿線外から池上線沿線にお越しいただく機会をつくることで、池上線の認知度を向上させるとともに沿線の街のよさを知ってもらう意図があります」と話すのは、東急電鉄広報部の担当者だ。
先述したように、鉄道運賃は公共交通という観点から低廉に抑えられている。池上線は全線に乗っても運賃は200円(IC乗車券利用の場合は195円)。もともと安い運賃だけに、これが無料になってもお得感は薄い。
しかし、「一日フリー乗車デー」で配布された無料券は約19万枚、利用者数は56万人超に達した。過去3年間における同日の利用者は、約15万人。その数字からも、「一日フリー乗車デー」の訴求力は絶大だったことが窺える。
池上線の「一日フリー乗車デー」は2017年だけの限定実施だったが、2007年から10年以上にもわたって、定期的に無料乗車デーを実施している事業者もある。それが、函館市電だ。