ビジネス

鉄道無料化は実現可能なのか 東急池上線と函館市電の試み

毎年、初詣無料電車を運行している函館市電

 高速道路の無料化についてはたびたび議論がされ、実証実験もされている。では、鉄道の無料化は実現可能なのか。期間限定で無料化を実施した東急池上線と函館市電、オーストラリア・メルボルンの路面電車の例について、ライターの小川裕夫氏がレポートする。

 * * *
 地域の足を担う鉄道は、インフラとして生活に欠かせないこともあって運賃は低廉に抑えられている。ただでさえ、鉄道は安価な移動手段。それなのに、鉄道事業者は学生には通学定期、高齢者にはシルバーパスなどを発行するといった金銭的な便宜も図っている。

 鉄道事業者には“公共の福祉”といった使命が課せられている。そうしたことから、安い運賃で人々が利用でき、鉄道事業者は国や地方自治体から補助金や税金の減免といった優遇処置を受けている。

 いくら“公共の福祉”を使命にしていても、公営・民営を問わず、鉄道事業者は利益をあげなければ運行・維持できない。だから、鉄道事業者は乗客から運賃を徴収し、不動産事業や小売業といった副業でも収益をあげようと躍起になる。

 しかし、運賃を払わなければ鉄道に乗車できないという固定概念は、いずれ打破されるかもしれない。それを予感させたのが、東急電鉄が2017年10月9日に池上線全線で実施した「一日フリー乗車デー」だ。

 東急電鉄は、渋谷駅―横浜駅を走る東横線、渋谷駅―中央林間駅を走る田園都市線、大井町駅―溝の口駅を走る大井町線、目黒駅―日吉駅を走る目黒線などを有している。これらの路線は、平日・土日祝日問わず多くの乗客が利用している。また、沿線人口は決して少なくない。

 そうした優良路線を抱える東急の中で、池上線の認知度は低かった。そうした事情から「東急では池上線の認知度を向上させる取り組みをしていますが、『一日フリー乗車デー』は、その第1弾といえます。『一日フリー乗車デー』では、“生活名所 池上線”をキャッチフレーズにして、PRに取り組みました。『一日フリー乗車デー』には、沿線外から池上線沿線にお越しいただく機会をつくることで、池上線の認知度を向上させるとともに沿線の街のよさを知ってもらう意図があります」と話すのは、東急電鉄広報部の担当者だ。

 先述したように、鉄道運賃は公共交通という観点から低廉に抑えられている。池上線は全線に乗っても運賃は200円(IC乗車券利用の場合は195円)。もともと安い運賃だけに、これが無料になってもお得感は薄い。

 しかし、「一日フリー乗車デー」で配布された無料券は約19万枚、利用者数は56万人超に達した。過去3年間における同日の利用者は、約15万人。その数字からも、「一日フリー乗車デー」の訴求力は絶大だったことが窺える。

 池上線の「一日フリー乗車デー」は2017年だけの限定実施だったが、2007年から10年以上にもわたって、定期的に無料乗車デーを実施している事業者もある。それが、函館市電だ。

関連キーワード

関連記事

トピックス

サークル活動にも精を出しているという悠仁さま(写真/共同通信社)
悠仁さまの筑波大キャンパスライフ、上級生の間では「顔がかっこいい」と話題に バドミントンサークル内で呼ばれる“あだ名”とは
週刊ポスト
『週刊ポスト』8月4日発売号で撮り下ろしグラビアに挑戦
渡邊渚さんが綴る“からっぽの夏休み”「SNSや世間のゴタゴタも全部がバカらしくなった」
NEWSポストセブン
米カリフォルニア州のバーバンク警察は連続“尻嗅ぎ犯”を逮捕した(TikTokより)
《書店で女性のお尻を嗅ぐ動画が拡散》“連続尻嗅ぎ犯” クラウダー容疑者の卑劣な犯行【日本でも社会問題“触らない痴漢”】
NEWSポストセブン
現場は246号線からすぐの場所だった
「マンションを出たら血溜まりが見えて…」世田谷・韓国籍40代女性切りつけ事件、近隣住民が証言 閑静な住宅街で“緊迫の現場”
NEWSポストセブン
オリエンタルラジオの藤森慎吾
《オリラジ・藤森慎吾が結婚相手を披露》かつてはハイレグ姿でグラビアデビューの新妻、ふたりを結んだ「美ボディ」と「健康志向」
NEWSポストセブン
川崎、阿部、浅井、小林
〈トリプルボギー不倫騒動〉渦中のプロ2人が“復活劇”も最終日にあわやのニアミス
NEWSポストセブン
別居が報じられた長渕剛と志穂美悦子
《長渕剛が妻・志穂美悦子と別居報道》清水美砂、国生さゆり、冨永愛…親密報道された女性3人の“共通点”「長渕と離れた後、それぞれの分野で成功を収めている」
NEWSポストセブン
結婚を発表した趣里と母親の伊藤蘭
《母が趣里のお腹に優しい眼差しを向けて》元キャンディーズ・伊藤蘭の“変わらぬ母の愛” 母のコンサートでは「不仲とか書かれてますけど、ウソです!(笑)」と宣言
NEWSポストセブン
寄り添って歩く小室さん夫妻(2025年5月)
《お出かけスリーショット》小室眞子さんが赤ちゃんを抱えて“ママの顔”「五感を刺激するモンテッソーリ式ベビーグッズ」に育児の覚悟、夫婦で「成年式」を辞退
NEWSポストセブン
負担の多い二刀流を支える真美子さん
《水着の真美子さんと自宅プールで》大谷翔平を支える「家族の徹底サポート」、妻が愛娘のベビーカーを押して観戦…インタビューで語っていた「幸せを感じる瞬間」
NEWSポストセブン
24時間テレビで共演する浜辺美波と永瀬廉(公式サイトより)
《お泊り報道で話題》24時間テレビで共演永瀬廉との“距離感”に注目集まる…浜辺美波が放送前日に投稿していた“配慮の一文”
NEWSポストセブン
芸歴43年で“サスペンスドラマの帝王”の異名を持つ船越英一郎
《ベビーカーを押す妻の姿を半歩後ろから見つめて…》第一子誕生の船越英一郎(65)、心をほぐした再婚相手(42)の“自由人なスタンス”「他人に対して要求することがない」
NEWSポストセブン