今回の事件は日本の司法の後進性、ひいては日本という国の後進性を世界に知らしめることになるはずである。小沢一郎氏の陸山会事件や堀江貴文氏が証券取引法違反容疑で逮捕されたライブドア事件のときも検察の暴走が問題視されたが、今回は“国内問題”ではなく、世界企業の外国人トップの起訴で、世界中から注目が集まる。
検察は、11月19日に2010~2014年度の5年間の虚偽記載でゴーン氏を逮捕し、12月10日に勾留期限が切れると、今度は2015~2017年度の3年間の虚偽記載で再逮捕し、勾留を延長したうえで起訴した。これは他の先進国の司法関係者からすれば信じがたいやり方だ。
欧米では凶悪犯でもない限り、長期勾留はしないが、日本では「証拠隠滅の恐れがある」として、長期勾留が当たり前になっている。被疑者が容疑を否認している場合、保釈を認めず、しかも検察は弁護士を立ち会わせずに取り調べを行う。「人質司法」と批判される所以である。
私はBBCやフランス公共放送など海外メディアからも取材を受けたが、記者たちは日本の検察のやり方に衝撃を受け、まさか先進国の日本でこのようなことが許されているとは信じられない様子だった。
こうした長期勾留と取り調べを海外メディアから「中国並み」と批判されると、久木元伸次席検事は記者会見で、「国それぞれに制度がある」と開き直った。検察の独善が端的に現れている。
東京地裁はゴーン氏の勾留延長を認めない決定をくだした。非常識な検察の独善を追認するだけでは、日本の刑事司法が国際的な批判を受けるという認識を裁判所も持ち始めているということだ。ゴーン氏の事件は、日本の刑事司法を変える契機になるかもしれない。
【PROFILE】ごうはら・のぶお/1955年島根県生まれ。東京大学理学部卒業。1983年検事任官。2006年検事退官。郷原総合コンプライアンス法律事務所代表。著書に『検察の正義』、『告発の正義』(共にちくま新書)、『検察崩壊』(毎日新聞社)などがある。
※SAPIO2019年1・2月号