私たち患者からすれば、難しい心臓や脳の手術をするわけではないし、ごく基本的な検査なのだから、白衣を着ている医師なら誰だってできるのだろうと信用しがちだが、そうではない。医師だって人間。得手不得手もあるし、勤勉だったり怠惰だったりもする。だから、セカンドオピニオンや繰り返し検査を受けることが重要なのだ。
診察室ではお決まりの「聴診」も、心臓や肺の音を聞き分けるのに医師の実力が試されるという。
「聴診は、単に心臓の音を聞くだけでなく、肺の音や血流が逆流する血管の異常音など、さまざまな音を聞き分けることが求められ、医師としてのスキルが試される重要な検診です。実際に、聴診で心臓音の異変に気づき、病気が見つかったケースもある。その一方で、儀式のように胸に聴診器を当てるだけの医師がいることも事実です」(室井さん)
検診を担当した医師がその分野の専門医であるかどうかによっても、精度は大きく左右される。
昨年7月、前出の河北健診クリニックで、自治体の検診制度を利用して胸部X線検査を受けた40代の女性が肺がんを3度にわたって見落とされて、亡くなっていたことがわかった。クリニックは自治体の実施要領に反し、専門医ではない医師だけで画像診断をしていた。前出の中山さんは、「人間ドックでもこうした事故が起きている可能性がある」と指摘する。
「人間ドックだから必ず専門医が勤務するとは限りません。自治体の検診では『専門医が画像を判断すること』といった条件が付されていますが、法律で定められているわけではありません。本来なら肺がんは呼吸器科や放射線科、胃がん検診では消化器内科の医師が診るべきですが、実際には必ずしもそうではない」
中山さんが続ける。
「私が学生だった昭和の終わり頃、肺がんの画像診断の講義は1時間しかありませんでした。今はもっと増えていると思いますが、肺がんの読影をできる医師がどの程度いるのか疑問です。実際、『これまで1枚も読影したことがない』という医師もいる。肺がんは専門外でも診断できるという風潮が強いですが、大きな間違い。よく、『肺がんのX線検査は、被ばくリスクの割に見つけにくいので受けなくていい』といわれますが、専門医がきちんと診れば、発見できる可能性は高くなります」(中山さん)
※女性セブン2019年2月14日号