芸能

榎木孝明が語る浅見光彦との出会いと市川崑監督の演出

榎木孝明が名監督たちとの思い出を語る

 映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、俳優・榎木孝明が、角川春樹監督との思い出、当たり役となった“浅見光彦”を初めて演じたときの市川崑監督の演出について語った言葉をお届けする。

 * * *
 榎木孝明は一九九〇年、渡辺謙の病気降板を受けて大作映画『天と地と』で主役の上杉謙信を演じることになる。監督は角川春樹だった。

「角川さんは監督として厳しい方でした。どんな芝居をしても『違う!』とリテイクさせられる。吉野の千本桜の下で浅野温子さんと喋るシーンでは、そうしているうちに桜の季節が過ぎてしまって東宝の一番大きなスタジオに一本千五百万円くらいの桜の木を植えて撮影しました。

 撮り上がっても、ラッシュで観て気に入らなければまた撮り直す。ある日、初めて大きな声で『オーケー! 俺が待っていたのは、それだ!』と言われました。『榎木の我が一切消えてなくなった』と。

 それまでは『榎木』が一生懸命に頑張っていたんですよ。その当時でこっちは十五年くらい役者やっていますから、自分なりにプランを考えていたのですが、それはあくまで榎木個人のちっちゃい考えに過ぎない。角川さんはそうじゃなくて、上杉謙信自身がどんな魂の持ち主か表現することを期待していたんですね。

『お前の芝居は幼稚園生以下だ。役者辞めろ。ついでに人間辞めろ』とか言われていましたから、本当に殺したい感覚でいました。鎧を着て小刀も本物を差していましたから、後ろから角川さんを刺す妄想をしていたり。飯も食えなくてね。結果的にそれが角川さんの狙いだったのでしょう。そこまで追い詰めてくれたおかげで、オーケーが出た芝居は『榎木』が消えていました」

 翌年には内田康夫原作の角川映画『天河伝説殺人事件』(市川崑監督)で、主人公の浅見光彦を演じた。その後、テレビでも長くにわたって浅見役を演じることになる。

関連記事

トピックス

被害男性は生前、社長と揉めていたという
【青森県七戸町死体遺棄事件】近隣住民が見ていた被害者男性が乗る“トラックの謎” 逮捕の社長は「赤いチェイサーに日本刀」
NEWSポストセブン
体調を見極めながらの公務へのお出ましだという(4月、東京・清瀬市。写真/JMPA)
体調不調が長引く紀子さま、宮内庁病院は「1500万円分の薬」を購入 “皇室のかかりつけ医”に炎症性腸疾患のスペシャリストが着任
女性セブン
学習院初等科時代から山本さん(右)と共にチェロを演奏され来た(写真は2017年4月、東京・豊島区。写真/JMPA)
愛子さま、早逝の親友チェリストの「追悼コンサート」をご鑑賞 ステージには木村拓哉の長女Cocomiの姿
女性セブン
1980年にフジテレビに入社した山村美智さんが新人時代を振り返る
元フジテレビ・山村美智さんが振り返る新人アナウンサー社員時代 「雨」と「飴」の発音で苦労、同期には黒岩祐治・神奈川県知事も
週刊ポスト
被害者の平澤俊乃さん、和久井学容疑者
《新宿タワマン刺殺》「シャンパン連発」上野のキャバクラで働いた被害女性、殺害の1か月前にSNSで意味深発言「今まで男もお金も私を幸せにしなかった」
NEWSポストセブン
【視聴率『愛の不時着』超え】韓国で大ヒット『涙の女王』 余命宣告、記憶喪失、復讐など“韓国ドラマの王道”のオンパレード、 華やかな衣装にも注目
【視聴率『愛の不時着』超え】韓国で大ヒット『涙の女王』 余命宣告、記憶喪失、復讐など“韓国ドラマの王道”のオンパレード、 華やかな衣装にも注目
女性セブン
公式X(旧Twitter)アカウントを開設した氷川きよし(インスタグラムより)
《再始動》事務所独立の氷川きよしが公式Xアカウントを開設 芸名は継続の裏で手放した「過去」
NEWSポストセブン
NHK次期エースの林田アナ。離婚していたことがわかった
《NHK林田アナの離婚真相》「1泊2980円のネカフェに寝泊まり」元旦那のあだ名は「社長」理想とはかけ離れた夫婦生活「同僚の言葉に涙」
NEWSポストセブン
大谷翔平の妻・真美子さんを待つ“奥さま会”の習わし 食事会では“最も年俸が高い選手の妻”が全額支払い、夫の活躍による厳しいマウンティングも
大谷翔平の妻・真美子さんを待つ“奥さま会”の習わし 食事会では“最も年俸が高い選手の妻”が全額支払い、夫の活躍による厳しいマウンティングも
女性セブン
広末涼子と鳥羽シェフ
【幸せオーラ満開の姿】広末涼子、交際は順調 鳥羽周作シェフの誕生日に子供たちと庶民派中華でパーティー
女性セブン
林田理沙アナ。離婚していたことがわかった(NHK公式HPより)
「ホテルやネカフェを転々」NHK・林田理沙アナ、一般男性と離婚していた「局内でも心配の声あがる」
NEWSポストセブン
タイトルを狙うライバルたちが続々登場(共同通信社)
藤井聡太八冠に闘志を燃やす同世代棋士たちの包囲網 「大泣きさせた因縁の同級生」「宣戦布告した最年少プロ棋士」…“逆襲”に沸く将棋界
女性セブン