90歳まで報われない「75歳受給開始」
今年65歳を迎える横浜市在住のAさんは年間211万円(月額約17万5000円)の年金をもらえる予定だ。東京23区、横浜市、名古屋市、大阪市など生活保護法の級地制度で「1級地」に指定されている都市は受給額が211万円以下ならば、世帯全員が住民税非課税となる(他の地域は金額が異なる)。一方、Aさんがあと10年我慢して75歳への繰り下げ受給を選んだ場合、現行の割増率で計算すると年金額は388万円(月額約32万円)にアップする。ざっと2倍だ。
しかし、年金額が増えると、その分、年金から天引きされる所得税・住民税、健康保険や介護保険などの社会保険料などがハネ上がる。
税理士でファイナンシャルプランナーの犬山忠宏氏の計算(同年齢の控除対象配偶者がいる場合)によると、65歳受給の年金額面211万円のケースではAさんの税・保険料は低く(年12万円)抑えられ、年金の手取りは199万円になる。それに対して、75歳支給を選ぶと額面388万円の年金から税金や保険料を55万円も天引きされ、手取りは333万円にとどまる。
繰り上げで年金の額面は2倍近くに増えるようにみえても、割増しされた金額の約3分の1が税金などで持って行かれるのだ。
この年金手取額をもとに65歳受給と75歳受給のどちらが得になるかの「損得分岐点」の年齢を試算すると、75歳受給を選んだ人は平均寿命を超える90歳まで生きなければ65歳で受給開始した場合の年金額に届かない。