芸能

『いだてん』はこれまでの大河ドラマの手法と違う画期的作品

『いだてん』は視聴率回復できるか?

 宮藤官九郎氏脚本によるNHK大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』の視聴率低迷が止まらない。2月17日放送の第7話は視聴率9.5%で“自己最低”を記録した。視聴率ばかりが話題になるが、作品そのものはどうなのか。コラムニストで時代劇研究家のペリー荻野さんがスバリ指摘する。

 * * *
 そんなわけで、大河ドラマ史上、最速で視聴率がひとケタを記録したとか、明治と昭和の場面の入れ替わりがわかりにくいとか、いろいろと言われている『いだてん』。おそらく、これまでの大河ドラマのイメージとはまったく違うことで違和感を覚える視聴者が多いということなのだろう。では、なぜ、違和感を覚えるのか?

 それはこのドラマが、「一番大きな出来事を小ネタのように見せる」という過去の大河ドラマとは、正反対の構造になっているからだ。

 第一話。講道館柔道の創始者で、日本スポーツの父と呼ばれる嘉納治五郎(役所広司)は、フランス大使から日本のオリンピック初参加を打診され、大張り切り。ところが周囲は猛反対。「体格の劣る日本人が競技に出れば死人が出る」とまで言われ、仕方なく、断るつもりで大使館に向かったものの、新しいオリンピックのポスターに日の丸が描かれているのを見て感動。その場で「参加します!!」と宣言してしまう。

 あれ? これって、日本がオリンピック初参加を決めたすごい場面でしょ? なのに、ウハウハうれしそうな治五郎先生の思いつき、面白シーンみたいに描いちゃってよかったの!? でも、すごく面白いんですけど!
 
 その後も、主人公の金栗四三(中村勘九郎)が、羽田のオリンピック予選会で、ゴールした場面でも、当時のマラソンの世界記録を打ち破った彼の大記録よりも、目立ったのは「雨で帽子の赤い染料が溶け出して顔が血だらけに見える四三」だった。さらに昭和になり、東京オリンピック開催を決定的にしたIOC総会の場面でも、平沢和重(星野源)の名スピーチよりも目立っていたのは、もうひとりの主人公・田畑政治(阿部サダヲ)が、落ち着きなく、煙草の火がついたほうを口にくわえてあちゃちゃちゃとやってる場面だったりする。

『いだてん』は、日本の一大事が、小ネタのごとく出てくるという特殊構造なのである。一方で、過去の大河ドラマはどうか。たとえば、坂本龍馬の物語では、滞在する寺田屋が捕り方に囲まれた際、のちに龍馬の妻となるおりょうが風呂場から半裸(全裸?)でそのことを龍馬に伝えたとされている。もちろん、名場面で私も好きな逸話だが、ここでは事件よりも「おりょうが半裸」ということが大事になって、「そろそろ放送ですか」「どんな場面に」と関心が集まる。小ネタなのに大きな歴史に見える構造なのだ。

 小ネタ、逸話をドラマチックに盛り上げて大事件に見せるのは、ドラマ作りの王道。しかし、ドラマチックな場面を小ネタに見せる『いだてん』はその逆を突っ走る。いわば逆走系。これまでの大河ドラマを求めたら、違和感も当たり前だ。だが、テレビとは「今までに見たこともないもの」を探し続けるメディアではなかったか?
 
 ドラマの中で、まだオリンピックを見たことがなかった治五郎先生は問う。「楽しいの? 楽しくないの? オリンピック」。これは、このままこのドラマにも通じる問いかけだ。「楽しいの? 楽しくないの? いだてん」。

 答えが出るのは、まだまだ先だが、個人的には「楽しい」に一票! 走り続けろ、いだてん!!

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