◆ニジンスキー、プルシェンコ、羽生という「王者の系譜」
そして、その系譜に連なるのが、羽生選手だ。ただ、ニジンスキーの独特のバレエポーズをふんだんに取り入れたプルシェンコのプログラムに対して、羽生選手のプログラムは、振付上はそれほどニジンスキーの影響は見られないように感じられる。
「羽生選手の場合、プルシェンコ選手が滑った曲を使うことに意味があるのだと思います。そうすることで、あの時点で世界最高のスケーターだったプルシェンコに捧げると同時に、現時点の世界最高のスケーターである自分がプルシェンコ選手を乗り越えていく。そうした宣言をしているのだと私は感じますね。
ゆえに、演技の上では、それほどニジンスキーを意識しているわけではないと思います。ただ、『王者の系譜』という点では、ニジンスキー、プルシェンコ、羽生という流れを意識しているのではないでしょうか。あのプログラムは『王者の系譜』、あるいは『革新者の系譜』に自分が連なるのだというマニフェストと受け取ることができると私は思っています」
王者は、いつの時代も、革新者であった。来週、最高の舞台で披露される王者のプログラムを心して待ちたい。
◆鈴木晶(すずき・しょう)
1952年東京生まれ。東京大学大学院人文科学研究科博士課程満期退学。法政大学名誉教授、早稲田大学大学院客員教授。専門は文学、精神分析学、舞踊学。