スポーツ

イチロー引退会見 胸に刻んでおきたい名言5

イチローにふさわしい歴史的な引退会見だった(AFP=時事)

 前人未到の領域からの言葉だった。後悔、成功、孤独。不世出のバットマンの向き合い方は示唆に富む。コラムニストの石原壮一郎氏がまとめた。

 * * *
 とうとう、この日が来てしまいました。日本で9年、アメリカで19年、積み上げた安打は4367本。日本のファンもアメリカのファンも、彼の華麗なプレーにどれだけたくさんのワクワクと感動を与えてもらったことか。長年にわたって応援できたこと、そして引退を見届けられたことは、とてもありがたくとても幸せなことです。

 3月21日、東京ドームで行なわれた「2019 MGM MLB日本開幕戦」第2戦の試合後、深夜に行なわれた記者会見で、大リーグ・マリナーズのイチロー外野手は「現役生活に終止符を打ち、引退することとなりました」と現役引退を発表しました。

 今までも数多くの名言を残したイチローですが、この会見でもたくさんの名言が飛び出しています。ひときわ心に残った5つの言葉をピックアップして、生き方や仕事への取り組み方、あるいは引き際に関する心得を学ばせてもらいましょう。

●引退会見の名言その1

「後悔などあろうはずがありません。(中略)自分なりに頑張ってきたということは、はっきり言えるので。これを重ねてきて、重ねることでしか後悔を生まないということはできないのではないかなと思います」

「後悔や思い残したことはあるか?」と聞かれて、「人よりも頑張ったということはとても言えないですけど」と前置きしつつ、こう答えました。イチローが言う「自分なりに頑張ってきた」という言葉には、とても重みがあります。その域に達することはできなくても、他人と自分を比較して劣等感や優越感を覚えたり、お手軽な言い訳として「自分なりに頑張った」という言葉を使うのを我慢したりすることで、後悔を減らせるに違いありません。

●記者会見の名言その2

「成功すると思うからやってみたい、それができないと思うから行かないという判断基準では後悔を生むだろうなと思います。やりたいならやってみればいい。できると思うから挑戦するのではなくて、やりたいと思えば挑戦すればいい。そのときにどんな結果が出ようとも後悔はないと思うんです」

 もうひとつ「後悔」がキーワードになっている名言。質問は「プロ野球選手になるという夢を叶えて、成功してきて、今何を得たと思うか?」でしたが、イチローはそこから話を発展させて、成功しそうかどうかは挑戦するかしないかの判断基準にはならないという「哲学」を語ってくれました。成功することを目的にしているうちは、本当の意味での成功は得られない──。仕事だけでなくいろんな場面で胸に刻んでおきたいスタンスです。

●引退会見の名言その3

「有言不実行の男になってしまったわけですけど、でも、その表現をしてこなかったら、ここまでできなかったかなという思いもあります。だから、言葉にすること。難しいかもしれないけど、言葉にして表現することというのは、目標に近づくひとつの方法ではないかなと思っています」

「最低50歳まで現役と言ってきたが、日本に戻ってプレーするという選択肢はなかったのか?」という質問に対して、イチローはきっぱり「なかったですね」と答えました。彼が「有言不実行」になったことを責める人は、だれもいません。私たちも、やりたいことやなりたいものについて、はっきり言葉にしましょう。ただし、言葉にしたからにはイチローのようにそこを目指して全力を尽くさないと、ただの口先野郎になってしまいます。

●引退会見の名言その4

「孤独を感じて苦しんだことは多々ありました。ありましたけど、その体験は未来の自分にとって大きな支えになるんだろうと、今は思います。(中略)エネルギーのある元気なときにそれに立ち向かっていく、そのことはすごく人として重要なことなのではないかなと感じています」

 以前に「孤独を感じながらプレーしている」と発言していたことを踏まえて、「孤独感はずっと感じていたのか?」と尋ねられたイチローは、「現在はまったくないです」と否定。その上で、苦しいことに立ち向かっていく大切さを語りました。どうやらイチローは、野球以外でも過酷な戦いを続けていたようです。今、辛い思いをしている人も、それが意味のある体験だと思える場合は、未来の自分を支えてくれると信じて踏ん張りましょう。

●引退会見の名言その5

「まあ、とにかく頑張ってくれました。僕はゆっくりする気はないですけど、妻にはゆっくりしてもらいたいと思ってます」

 長くイチローの戦いを支えてきた弓子夫人に対して。ホームの試合の時はゲーム前に弓子夫人が握ったおにぎりを食べていて、その数が通算2800個くらいだったとか。「3000個握らせてあげたかった」という言葉に、パートナーへの深い愛と感謝がにじみ出ています。大きな節目を迎えたときには、配偶者へのねぎらいと感謝の言葉を人前ではっきり口にすることがきっと大切。会社勤めの方も、定年退職を迎えた暁にはぜひ実行してください。

 歴史に残る選手にふさわしい、歴史に残る引退会見でした。イチローは引退して元イチローになってからも、きっとさまざまな形で私たちに刺激や感動を与えてくれるに違いありません。僭越ながら、さらなるご活躍とご健勝とご多幸を祈らせていただきましょう。

関連キーワード

関連記事

トピックス

北海道札幌市にある建設会社「花井組」SNSでは社長が従業員に暴力を振るう動画が拡散されている(HPより、現在は削除済み)
《暴力動画拡散の花井組》 上半身裸で入れ墨を見せつけ、アウトロー漫画のLINEスタンプ…元従業員が明かした「ヤクザに強烈な憧れがある」 加害社長の素顔
NEWSポストセブン
筑波大学の入学式に出席された悠仁さま(撮影/JMPA)
悠仁さま入学から1か月、筑波大学で起こった変化 「棟に入るには学生証の提示」、出入りする関係業者にも「名札の装着、華美な服装は避けるよう指示」との証言
週刊ポスト
藤井聡太名人(時事通信フォト)
藤井聡太七冠が名人戦第2局で「AI評価値99%」から詰み筋ではない“守りの一手”を指した理由とは
NEWSポストセブン
趣里と父親である水谷豊
《趣里が結婚発表へ》父の水谷豊は“一切干渉しない”スタンス、愛情溢れる娘と設立した「新会社」の存在
NEWSポストセブン
米利休氏のTikTok「保証年収15万円」
東大卒でも〈年収15万円〉…廃業寸前ギリギリ米農家のリアルとは《寄せられた「月収ではなくて?」「もっとマシなウソをつけ」の声に反論》
NEWSポストセブン
SNS上で「ドバイ案件」が大騒動になっている(時事通信フォト)
《ドバイ“ヤギ案件”騒動の背景》美女や関係者が証言する「砂漠のテントで女性10人と性的パーティー」「5万米ドルで歯を抜かれたり、殴られたり」
NEWSポストセブン
“赤西軍団”と呼ばれる同年代グループ(2024年10月撮影)
《赤西仁と広瀬アリスの交際》2人を結びつけた“軍団”の結束「飲み友の山田孝之、松本潤が共通の知人」出会って3か月でペアリングの意気投合ぶり
NEWSポストセブン
田村容疑者のSNSのカバー画像
《目玉が入ったビンへの言葉がカギに》田村瑠奈の母・浩子被告、眼球見せられ「すごいね。」に有罪判決、裁判長が諭した“母親としての在り方”【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン
アメリカから帰国後した白井秀征容疑(時事通信フォト)
「ガイコツが真っ黒こげで…こんな残虐なこと、人間じゃない」岡崎彩咲陽さんの遺体にあった“異常な形跡”と白井秀征容疑者が母親と交わした“不穏なメッセージ” 〈押し入れ開けた?〉【川崎ストーカー死体遺棄】
NEWSポストセブン
赤西と元妻・黒木メイサ
《赤西仁と広瀬アリスの左手薬指にペアリング》沈黙の黒木メイサと電撃離婚から約1年半、元妻がSNSで吐露していた「哺乳瓶洗いながら泣いた」過去
NEWSポストセブン
元交際相手の白井秀征容疑者からはおびただしい数の着信が_(本人SNS/親族提供)
《川崎ストーカー死体遺棄》「おばちゃん、ヒデが家の近くにいるから怖い。すぐに来て」20歳被害女性の親族が証言する白井秀征容疑者(27)の“あまりに執念深いストーカー行為”
NEWSポストセブン
不倫疑惑が報じられた田中圭と永野芽郁
《永野芽郁のほっぺたを両手で包み…》田中圭 仲間の前でも「めい、めい」と呼ぶ“近すぎ距離感” バーで目撃されていた「だからさぁ、あれはさ!」
NEWSポストセブン