冒頭のセリフを吐いたのは、もちろんアキバ。金が全てを支配する世界に対抗する、無頼でアナーキーな人物です。彼が語る理想の言葉は、存在して欲しい正義であり、自由の宣言であり、しかしどこか空虚。それはまさに、理想郷「ユートピア」。
一方、金と権力と女にギラギラしている越中は金融資本主義の権化のようで、いわば「現世」そのもの。
そして、もう一人のキーマンがいる。強烈な2人の間で光を放っているエイリ(武田玲奈)です。看護学校の元生徒で闇金融業者に追われる若い女性・エイリの透明感たるや、まさしく「無垢」。そう、こちらは「イノセントワールド」です。
エイリはまるで汚濁の世界に生まれ落ちたばかりの赤子のよう。まだ何色にも染まっていない透明感をまとっています。所在のなさ、浮遊感。エイリ独特の個性をしっかりと掴み出し、演じきっている武田玲奈さんに女優としてのこれからの可能性を感じます。
「テレビ局買収」というテーマについては、かつてのホリエモンや村上ファンドの買収騒動を思い起こさせ「もはやテーマとして古い」という声も。つまり、テレビはもはやオワコン、今どきの買収劇の対象となるのはネット、IT、AI関連では、といった意見にも、たしかに一理あり。でもこのドラマが問いかけようとしているのは、物語を展開していくための素材・要素にはなくて、究極のテーマ性にある。
そう、金の力とは何なのか? もっと言えば、世の中に君臨している既存の価値とは、何なのか? それはあなたにとって、本当に価値があるものなのか? 今後も価値があり続けるものなのか?
「ユートピア」vs「現世」vs「イノセントワールド」が三つどもえとなって、根本的なテーマに迫っていく『新しい王様』の新鮮さに、視聴者の心はゾワゾワさせられるのです。