「人間って本能的にいろんな人になってみたい欲があると思うんです。女優ってその最たるものなんですよね。
それから、生のお客さんと向き合うことができる。一緒に劇場の空気を吸って、同じ体験をできるのが嬉しいのかなあ。ですから批評家の方もいろいろと言ってくださいますが、一番信用しているのは終わった後のお客さんの拍手です。
私もそうですが、芝居を観てね、つまらない時は拍手をしないし、いい時は立ちあがってするし、楽屋まで飛び込んで『良かった!』と言うし。
準備段階でセリフが入っていくというのも一つの喜びですね。なかなか素直に入ってこない時は苦しみでもあります。
でも、結構すんなりできちゃった時の方が芝居があまりよくなかったりするんですよ。『これはどういうことなんだろう』『この人はどういう人なんだろう、どういう気持ちなんだろう』と、なかなか掴めない場合の方が上手くいくこともあるんです。
簡単に分かっちゃった時というのは、あまり面白くないというのがあるのかもしれません。大変だから、大変と同時に私と役が一緒になっていくのかな」
●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『すべての道は役者に通ず』(小学館)が発売中
■撮影/五十嵐美弥
※週刊ポスト2019年4月5日号