【著者に訊け】渡貫淳子氏『南極ではたらく かあちゃん、調理隊員になる』/1400円+税/平凡社
広大な南極大陸で気象や地質などの観測を行う南極地域観測隊。政府機関の研究員や企業派遣のほか、公募の専門職も参加している。第57次観測隊の調理隊員、渡貫淳子さんもその1人だ。一般公募の調理隊員としては初めての女性で、子どものいる女性が参加するのも初めてのことだった。
観測隊には、白夜の時期だけを過ごすので〈日帰り〉とも呼ばれる〈夏隊〉と、1年を過ごす〈越冬隊〉がある。渡貫さんは越冬隊の一員として、〈2000品目、30トンを超える食糧〉をもう1人の調理隊員と用意し、朝昼晩の食事と夜食やおやつを提供してきた。
大陸から約4キロ離れた島にある昭和基地で生活する越冬隊の隊員は30人。調理隊員も食事作りだけしていればいいわけではない。土木作業の手が足りなければ、〈コンクリートを練ったり、そのコンクリートで車庫のスロープを作ったり。足場を組んで風力発電の建設作業も手伝った〉こともあり、〈慣れない作業で筋肉痛になったり、知らないうちに体中に青あざができていた〉。
限られた人数、ギリギリの物資で送る極地での1年間の生活を、トラブルも含めて楽しげに、いきいきと書いたのが本書である。
「南極観測隊のメンバーって、世間からは何でもこなす猛者みたいなイメージでしょうけど、全然そんなことはないし、人格者でも品行方正でもありません。どちらかというと社会不適合者の集団です(笑い)」
〈昭和基地は文明社会の縮図のようなもの〉。トラブルも日本で起きるものと変わらない。誰それはトイレットペーパーが芯だけになっているのに交換しない、誰それはご飯の時間にいつも遅れてくる。些細なことが問題になる。
渡貫さん自身、年上の観測隊員と、観測隊の食事をめぐって喧嘩になったことがある。悔し涙もうれし涙も、自分が泣く場面が実にさっぱりと描かれている。何しろ、〈隊長室にあるBOXティッシュを一番使ったのは私らしい〉のだ。