◆朝3時に揚げたカレーパン

 隊員の誕生日やお花見、〈氷山流しそうめん〉など、行事を大切にするのも観測隊生活の特徴。クリスマスや年越しそば、おせちに餅つき、次の隊の歓迎会や最後の晩餐会もやった。

「20年ほど調理の仕事に携わってきて、自分がどんな料理人になりたいか明確ではなかったんですけど、私は、食べてくれる対象がはっきりしているほうがモティベーションは上がるというのがわかりました。観測隊の仕事は楽しくて、やりがいがありましたね」

 つらかったのは白夜だ。

「外が明るいと寝られないんです。私は窓に足を向けて寝ましたけど、段ボールで窓に目張りをする人もいましたね。それに日が沈まないと皆さん交代で24時間働くんです! おやつや夜食の量も増えるので、朝3時にカレーパンを揚げていた日もありました」

 2人体制とはいえ〈調理隊員の拘束時間はどうしても長く〉なったが、観測隊には〈仕事量を比較してはならないという暗黙の了解がある〉のだそう。

「比べてたら、争いにしかなりませんから。仕事の種類も違うし、全体の中で自分の仕事のボリュームが軽いと思う人は、率先してほかの手伝いに入ります。やらなくてもいいのに、それって思いやりですよね」

 閉鎖空間で男女が暮らすうえでの配慮もある。基地では、〈男性隊員には触れない、肩をポンと叩くことすらしないと決めていた〉そうだ。30人中女性隊員は5人。渡貫さんは女性の最年長、既婚者ということもあり、「下着が透けないように注意してもらえないかな?」といった言いづらいことを男性隊員から伝えられたりもした。仕事は主に室内だが、屋外作業に出る機会もあった。雪上車を運転し、人工物がない真っ白い世界を何時間も走ったこともある。

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