野茂移籍を実現させた団野村氏(時事通信フォト)
そこで私は3つの作戦を立てました。まず作戦Aは契約更改で巨大契約を要求すること。具体的にはFA取得までの6年間で24億円です。当時あまり例のなかった複数年契約を持ち出せば、球団は認めるどころか、怒って他球団でもプレーできないよう任意引退にする制裁措置に出るだろうと読みました。万が一認められてもそれは野茂君の利益になる。彼は「6年契約を認められるより、すぐにメジャーへ行くほうが嬉しい」と本音を漏らしていましたが、「時代を変えていく一つのきっかけにはなる」と乗り気でしたね。
作戦Bは契約を蹴られた場合に徹底抗戦すること。春季キャンプにも参加せず、1年間プレーしなければ自動的に任意引退となるので、これを狙いました。
そして作戦Cは任意引退が封じられた場合。米国で裁判を起こす予定でした。職業選択の自由に反すると、労働側が強いカリフォルニア州で訴えれば99%勝てるといわれていました。この作戦は半年ぐらいかかるが、日本ではもう少しイメージがよかったかもしれませんね。
結局は当初の読み通り作戦Aが当たり、「契約しないと任意引退にする」というセリフが出た。球団は脅しのつもりが、野茂君が素直に応じたので困惑したみたいです。翌日、球団関係者やマスコミが任意引退の意味がわかって大騒ぎとなりました。
ただ、ルールを守ったはずなのに我々はマスコミから大バッシングを受けました。これを覆すには成績を残すしかないと決意した野茂君は、1年目から素晴らしい活躍を見せ、日米で「NOMOマニア」という言葉が生まれるほどの人気を得たのは、周知の通りです。まあ、私はいまだに悪者ですけどね(苦笑)。
●取材・文/鵜飼克郎
※週刊ポスト2019年5月3・10日号