戸川純が出会った人々をつづった本書は、遠藤ミチロウ、三上寛、遠藤賢司、町田康、そして久世光彦や岡本太郎らとのエピソードを交え、彼らの奥深いところを丁寧に描き出している。静けさをたたえた文体の中に、戸川純が彼らの姿を見つめ、言葉を受け止めた瞬間が立ち上がってくる。
バンドTACOのヴォーカルだったロリータ順子との交遊と別れをたどった一篇は、切なく哀しい。〈彼岸から聞こえるような、順子ちゃんの、キャッキャという、可愛くはしゃぐ、無垢な女の子の声〉が私にも届いてきた。
蜷川幸雄は、戸川純作詞の『諦念プシガンガ』と『蛹化の女』(むしのおんな)を劇中で使うほど愛し、役者としての彼女を高く評価したひとりだ。〈蜷川さんは、アングラの魂の火を消したわけではなかったのだ〉と追悼する文は、胸にしみる。
※週刊ポスト2019年5月3・10日号