「喜劇の中に全て入っていると思うんです。喜劇には変な奴ばかり出ているわけではないですから。たとえば『男はつらいよ』でも、寅さんは不思議の人でも周りの人はまともなんですよ。そして、まともな人はまともな芝居をしなきゃならない。主役のおかしい人と一緒になって周りもふざけていたら、面白くないんです。噛み合わないから面白い。ですから、喜劇をやるとなんでもできるようになる。大真面目な役もあれば動物の役もある。それが喜劇ですから。

 若い人も最初は喜劇からやったらどうかと思うほどです」

 一九七〇年『時間ですよ』、一九七七年『ムー』と、TBSの久世光彦演出のコメディドラマにも何度も出演している。

「私は久世さんに好かれてなかった様に思うんです。好きじゃない役者にこういうことをやらせてみたい、という屈折したものがあるのかな。それもまたいいんじゃないかと思いました。好きじゃない役者の方が演出しやすい。相手の側に立ってみると、好きな人にはやりたいことをやらせちゃうけど、嫌だなという奴には言いたいことが言えますからね。

 久世さんは作品に入る前から厳しい注文をつけてくる。変な役をやらせておいて『これ、お客が一人でも笑ったら失敗だからね』って。そういう注文。演出をしていても、なかなか『うん』って言わない。『宿題。考えてきて』と突き放す。それも、無理難題を。黒電話で電話していて、話が終わったら受話器を3メートル程先に投げて元の場所に入れろとか、芝居じゃないことでした。

 それは戦術なんでしょう。何万回やってもできることじゃないんです。ようするに、家に帰ってもこの作品から一歩も離れるなということなんでしょう。

 ど素人が入れてもらったんだから文句を言う筋合いじゃないと思ってやっていました」

●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『すべての道は役者に通ず』(小学館)が発売中。

■撮影:藤岡雅樹

※週刊ポスト2019年5月17・24日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

母の日に家族写真を公開した大谷翔平(写真/共同通信社)
《長女誕生から1か月》大谷翔平夫人・真美子さん、“伝説の家政婦”タサン志麻さんの食事・育児メソッドに傾倒 長女のお披露目は夏のオールスターゲームか 
女性セブン
万博初日、愛子さまは爽やかな水色のセットアップで視察された(2025年5月9日、撮影/JMPA)
《雅子さまとお揃いパンツスーツ》万博視察の愛子さま“親子シミラールック”を取り入れたコーデに「ネックレスのデザインも相似形でした」【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
ぐんぐん上昇する女優たちのCMギャラ(左から新垣結衣、吉永小百合、松嶋菜々子/時事通信フォト)
【有名女優のCMギャラ一覧表】1億円の大台は80代と50代の2人 10本超出演の永野芽郁は「CM全削除なら5億円近く吹っ飛ぶ」の声も
週刊ポスト
違法薬物を所持したとして職業不詳・奥本美穂容疑者(32)が逮捕された(Instagramより)
《美女・ホテル・覚せい剤…》元レーサム会長は地元では「ヤンチャ少年」と有名 キャバ嬢・セクシー女優にもアテンダーから声がかかり…お手当「100万円超」証言
NEWSポストセブン
中居の女性トラブルで窮地に追いやられているフジテレビ(右・時事通信フォト)
【独占直撃】元フジテレビアナAさんが中居正広氏側の“反論”に胸中告白「これまで聞いていた内容と違うので困惑しています…」
NEWSポストセブン
不倫報道の渦中、2人は
《憔悴の永野芽郁と夜の日比谷でニアミス》不倫騒動の田中圭が舞台終了後に直行した意外な帰宅先は
NEWSポストセブン
「全国赤十字大会」に出席された雅子さま(2025年5月13日、撮影/JMPA)
《愛子さまも職員として会場入り》皇后雅子さま、「全国赤十字大会」に“定番コーデ“でご出席 知性と上品さを感じさせる「ネイビー×白」のバイカラーファッション
NEWSポストセブン
違法薬物を所持したとして職業不詳・奥本美穂容疑者(32)が逮捕された(Instagramより)
〈シ◯ブ中なわけねいだろwww〉レースクイーンにグラビア…レーサム元会長と覚醒剤で逮捕された美女共犯者・奥本美穂容疑者(32)の“輝かしい経歴”と“スピリチュアルなSNS”
NEWSポストセブン
永野芽郁のCMについに“降板ドミノ”
《永野芽郁はゲッソリ》ついに始まった“CM降板ドミノ” ラジオ収録はスタッフが“厳戒態勢”も、懸念される「本人の憔悴」【田中圭との不倫報道】
NEWSポストセブン
スタッフの対応に批判が殺到する事態に(Xより)
《“シュシュ女”ネット上の誹謗中傷は名誉毀損に》K-POPフェスで韓流ファンの怒りをかった女性スタッフに同情の声…運営会社は「勤務態度に不適切な点があった」
NEWSポストセブン
現行犯逮捕された戸田容疑者と、血痕が残っていた犯行直後の現場(時事通信社/読者提供)
《動機は教育虐待》「3階建ての立派な豪邸にアパート経営も…」戸田佳孝容疑者(43)の“裕福な家庭環境”【東大前駅・無差別切りつけ】
NEWSポストセブン
憔悴した様子の永野芽郁
《憔悴の近影》永野芽郁、頬がこけ、目元を腫らして…移動時には“厳戒態勢”「事務所車までダッシュ」【田中圭との不倫報道】
NEWSポストセブン