LNGは天然ガスをマイナス162℃以下に冷却して液化したもの。国内にある貯蔵タンクは魔法瓶のような構造で、徐々に気化していくLNGを配給している。つまり、長期の貯蔵ができないため、流通在庫があるのみで、それがおよそ20日分とされている。
輸入が5分の1ずつショートしていけば、数か月で枯渇する計算で、原油よりもかなり早く限界が訪れるのである。
日本でのLNGの用途は、3分の2が火力発電用、3分の1が都市ガス用である。このうち都市ガスについては、東京ガス、大阪ガス、東邦ガスの大手3社が市場の7割を占めている。都市ガスは代替が効かないだけに、各社とも中東依存度をすでに下げており、現在は数%程度に過ぎない。
一方の発電への影響はどうか。日本の電力会社の発電実績で言えば、LNG火力が38.3%(2017年度)を占めている。しかし、これは全国の電力会社の総計であって、沖縄電力や中国電力、北陸電力などは石炭火力が中心であるのに対し、東京電力や関西電力、中部電力など都市部の電力会社ではLNG火力が主力である。
たとえば、東京電力の発電実績では、LNG火力は実に65%(2015年度)に達している。2011年の福島第一原発の事故後、LNG火力と石炭火力を増やしてきた結果だ。中部電力もLNGが57%(2017年度)で半分以上を占めている。
東京電力と中部電力は共同出資して、燃料調達を行なうJERAという会社をもっているが、東洋経済オンライン(2019年6月15日付)によると、JERAのホルムズ海峡依存度は32%だという。
封鎖が長引いて、発電の半分以上を占めるLNGの約3割が欠落したら、東電管内や中部電管内で大停電が起きたりしないのか。
この問いに前出の石井彰氏はこう答える。
「その心配には及ばない。日本のLNG輸入は長期の固定契約が多いから、それしか方法がないと誤解している人が多いが、LNGもスポットで買えるのです。欧州や中国では、パイプラインで天然ガスを輸入し、夏の間に地下に貯蔵して冬の暖房需要に備えているが、LNGの価格が上がると貯蔵分をスポットで売りに出してくる。だから、LNGが足りなくなったら買えばすむこと。福島の原発事故の直後、原発が止まったため計画停電が実施されたが、そのあと停電が起きなかったのはスポットで買いまくったからです。万が一、足りないという事態になったとしても、地元の了解は必要ですが、政治が決断して原発を再稼働させれば真夏のピーク時でも耐えられます」