ホルムズ海峡が封鎖されても、大停電が起きるような事態は避けられるという。
ただし、別の面での影響はある。
「スポットで買うとなれば、他の国より高い値段を提示しなければならないので、天然ガスも原油も当然、価格が上がる。ホルムズ海峡の封鎖という事態になれば、投機マネーが集まってきて、おそらく現在の2倍以上の価格になる。1970年代の第一次、第二次オイルショックのような事態になるでしょう」(石井氏)
原油や天然ガスが暴騰すれば何が起きるのか。1970年代まで遡らなくても、つい最近、日本人はそれを体験している。
2008年9月のリーマンショックの直前、投機マネーが商品先物市場で暴れ回り、原油価格(WTI)は史上最高の1バレル147ドルをつけた(現在は50ドル前後)。
ガソリン価格は1リットル200円を突破し、電気代も大幅に上昇。燃料費の高騰でトラック業者の倒産が例年より3割増加した。漁業も経費のなかで燃料の占める割合が高く、燃料費が5年前に比べて2.5倍になったのに価格はセリで決められるため、価格転嫁が難しく、2008年6月にはイカ釣り漁船の全国ストライキが決行された。
航空業界では燃油サーチャージが導入され、航空運賃も高騰。日本からハワイの往復で1人あたり4万円もの燃油サーチャージが追加されることもあった。
現代の農業は、天然ガスから肥料を製造し、石油で農業機器を動かして行なうしくみで、原油・天然ガスが高騰すると穀物価格も連動して高騰する。穀物飼料の価格が高騰して畜産農家も打撃を被ったし、食品価格も値上げが相次いだ。
のど元過ぎれば……で忘れてしまった人が多いかもしれないが、ほんの10年ほど前に日本で起きたことである。ホルムズ海峡が封鎖されると、安倍首相と日銀が待ち望んだ“インフレ”が実現するが、エネルギー資源の高騰によるインフレはコストインフレであって、経済には悪影響しか及ばさず、日本経済は不況に突入しかねない。そうなれば、まさに「令和のオイルショック」到来である。
●取材・文/清水典之(フリーライター)