「星のや東京」(提供/星野リゾート)
──同族経営や世襲についてはどう考えますか?
星野:1991年に私が家業を引き継いだ時、スタッフは百数十人ほどでしたが、現在は正社員3000人ほどにもなります。当時と比べ経営の難易度ははるかに高く、ファミリーメンバーの誰かがいきなり経営できるような簡単なものではありません。
とはいえ、会社の経営ビジョンや哲学を中長期的に持続していくためには、創業家の役割は欠かせません。
そもそも日本の企業の圧倒的多数は同族企業であり、経済を支えているにもかかわらず、公私混同や給与制度の不備などでそのマネジメントの水準は低いと見られてしまっている。しかし、その分改善の余地はあるし、同族企業のほうが「長期的な持続性」という面では優れている。
例えばプロ経営者が20年後を語っても「あなたはその頃いない」と言われれば説得力がない。しかし創業家の人間なら、20年後への真剣なビジョンを示せる。それに訴求力があれば人はついてきます。
―─星野リゾートの長期的なビジョンとは?
星野:我々が目指すのは、収益や施設数といった「数字」ではありません。数値的な目標達成のために無理をするのではなく、星野リゾートらしい仕事を一つ一つ成し遂げていく―そうすることが顧客満足度を高め、ブランドを高めていくことに繋がると考えています。
旧奈良監獄(提供/星野リゾート)
【PROFILE】ほしの・よしはる:1960年、長野県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、米コーネル大学ホテル経営大学院修士課程修了。日本航空開発、シティバンクを経て1991年に星野温泉(現・星野リゾート)代表取締役に就任。自社のリゾート施設運営のほか、経営破綻した大型リゾートの再生事業にも着手する。
●聞き手/河野圭祐(ジャーナリスト):1963年、静岡県生まれ。経済誌編集長を経て、2018年4月よりフリーとして活動。流通、食品、ホテル、不動産など幅広く取材。
※週刊ポスト2019年6月28日号