「百鬼夜行」とは、鬼を始めとする妖怪たちが列をなして夜行すること。真の暗闇と縁遠くなった現代人には想像もつかないかもしれないが、中世の人びとはその恐怖の空間と共存していかなくてはならなかった。一般庶民が夜の外出を極力控えるなか、高貴な身分の男性たちは通い婚の習慣に従い、想う相手の女性の屋敷にわずかな供とともに足繁く通った。
暗闇の恐怖と戦いながらの夜行であるからこそ愛情の深さを測るバロメーターともされたわけで、『平家物語』にも白河法皇が熱をあげていた祇園女御の屋敷へ赴く途中、灯明を捧げようとしていた僧侶を妖怪と見誤った話が載せられている。他の護衛が震えおののくなか、平忠盛(平清盛の父)だけは冷静に対処し、殺生を犯さずに済んだのだが、中世の都に生きた人びとにとって、夜の暗闇はそれくらいリアルな恐怖の対象で、武士であろうと恐怖を免れなかったのだった。
【プロフィール】しまざき・すすむ/1963年、東京生まれ。歴史作家。立教大学文学部史学科卒。旅行代理店勤務、歴史雑誌の編集を経て現在は作家として活動している。著書に『ざんねんな日本史』(小学館新書)、『春秋戦国の英傑たち』(双葉社)、『眠れなくなるほど面白い 図解 孫子の兵法』(日本文芸社)、『いっきにわかる! 世界史のミカタ』(辰巳出版)、『いっきに読める史記』(PHPエディターズ・グループ)など多数。