祖霊の送り出し儀式は枯れた年長者、踊りは若夫婦や無邪気な子供たちに任せ、若者は奔放な性を楽しむ。やぶ蚊にはさされるが、春祭や秋祭の時期では肌寒いから、それよりは夏祭の時期のほうがまだまし。盆踊りが廃れることなく長く続いてきた背景には、このような事情が働いているのではあるまいか。
夜這いでは間違いも起こりうるが、明るいところで顔の確認ができる盆踊りであればそれはありえない。間違いというのは、娘の側にすれば想いの相手とは別の男性が来たのにそれに気づかず受け入れてしまった場合、男の側にすれば父母や祖父母、兄弟など別の床に忍んでしまった場合で、バツが悪いことこの上ない。
娘の過ちは秘匿されても、若い男の過ちは村中に知れ渡り、生涯笑いの種にされるのが落ちだった。
【プロフィール】しまざき・すすむ/1963年、東京生まれ。歴史作家。立教大学文学部史学科卒。旅行代理店勤務、歴史雑誌の編集を経て現在は作家として活動している。著書に『ざんねんな日本史』(小学館新書)、『春秋戦国の英傑たち』(双葉社)、『眠れなくなるほど面白い 図解 孫子の兵法』(日本文芸社)、『いっきにわかる! 世界史のミカタ』(辰巳出版)、『いっきに読める史記』(PHPエディターズ・グループ)など多数。