ネタ出しはここまでの二席。「ここからはオマケです」と三席目に演じたのは、桂文枝の創作落語『涙をこらえてカラオケを』。老父が亡くなり、故人がカラオケ好きだったのにちなんでカラオケ葬となる。ここからはマイク片手に朗々と歌いまくる「小朝オンステージ」。息子は遺産相続をテーマに井上陽水『少年時代』の替え歌を、嫁は義父のセクハラを告発する渡辺真知子『かもめが翔んだ日』の替え歌を披露する。新橋演舞場で歌いたくてこのネタを選んだとしか思えない(笑)。
今の落語界での小朝のあり方は、かつて36人抜きで真打になった若き日の小朝に落語ファンが期待したものとは少し違う気もするが、「一般大衆への落語の普及」に貢献する小朝らしい独演会ではあった。
●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『噺は生きている』など著書多数。
※週刊ポスト2019年8月16・23日号