国内

京アニ放火被害者の父、悲しみの中取材を受ける理由

長女の幸恵さんを亡くした伸一さん

「過去は振り返りたくないので、昔のことは思い出しません。でも悲しみは別です。娘が死んだという悲しみと、娘がいなくなったという寂しさが、わけのわからない感情として私の中にあります」

 8月下旬、強い日差しが照りつける兵庫県加古川市郊外にある自宅で、長女の津田幸恵さん(41才)を失った父の伸一さん(69才)は、娘の遺影と遺骨の前で言葉を絞り出した。

 7月18日、京都市伏見区にあるアニメ制作会社「京都アニメーション(以下、京アニ)」第1スタジオが放火され、男女35人が死亡、34人が重軽傷を負った。

 未曽有の惨劇で犠牲になった幸恵さんは、兄1人、妹2人の4人きょうだい。少女時代、喘息のため学校を休むことが多く、外出も控えがちな幸恵さんが没頭したのは、「好きな絵を描く」ことだった。

「中学生の頃から、机に向かってよく絵を描いていました。高校時代は『るろうに剣心』が大のお気に入りで、すでにこの頃には、将来、アニメの道に進むことを決心していたようです」(伸一さん・以下同)

 高校を卒業後、大阪の専門学校でアニメを学び、憧れの京アニへの就職が決まった。

「家内は娘が家を出ることが不安で、わざわざ家内と2人で京アニを訪れて会社のかたと話をしました。その時、家庭的な会社で社員寮があることもわかり、家内は安心したようです。

 入社した幸恵は実家に帰省するたびに表情が明るくなりました。幼い頃は病弱やったけど、声が大きくなって元気になったんです。京都でさぞかし充実した日々を過ごしているのやろうと思いました」

◆エンドロールに名前が登場するのがうれしくて

 幸恵さんが担当したのは、繊細なアニメの絵を仕上げる「着色」だ。カラーコーディネーターの資格を取得して、『涼宮ハルヒの憂鬱』『映画 けいおん!』などの京アニオリジナル作品を手がけたほか、京アニが下請けを担った『クレヨンしんちゃん』『名探偵コナン』などの人気作にも参加。

 そんな娘の活躍が両親には誇らしかった。

「テレビで放送される『クレヨンしんちゃん』のエンドロールに“津田幸恵”という名前が出るのがうれしくて、家内と毎週楽しみにしていました。名前が出てから消えるまであっという間だから、見逃さんように集中してね」

関連記事

トピックス

大谷と真美子さんの「冬のホーム」が観光地化の危機
《ベイビーが誕生した大谷翔平・真美子さんの“癒しの場所”が…》ハワイの25億円リゾート別荘が早くも“観光地化”する危機
NEWSポストセブン
公然わいせつで摘発された大阪のストリップ「東洋ショー劇場」が営業再開(右・Instagramより)
《大阪万博・浄化作戦の裏で…》摘発されたストリップ「天満東洋ショー劇場」が“はいてないように見えるパンツ”で対策 地元は「ストリップは芸術。『劇場を守る会』結成」
NEWSポストセブン
なんだかんだ言って「透明感」がある女優たち
沢尻エリカ、安達祐実、鈴木保奈美、そして広末涼子…いろいろなことがあっても、なんだかんだ言って「透明感」がある女優たち
女性セブン
同僚に薬物を持ったとして元琉球放送アナウンサーの大坪彩織被告が逮捕された(時事通信フォト/HPより(現在は削除済み)
同僚アナに薬を盛った沖縄の大坪彩織元アナ(24)の“執念深い犯行” 地元メディア関係者が「“ちむひじるぅ(冷たい)”なん じゃないか」と呟いたワケ《傷害罪で起訴》
NEWSポストセブン
過去の大谷翔平のバッティングデータを分析(時事通信フォト)
《ホームランは出ているけど…》大谷翔平のバッティングデータから浮かび上がる不安要素 「打球速度の減速」は“長尺バット”の影響か
週刊ポスト
電動キックボードの違反を取り締まる警察官(時事通信フォト)
《電動キックボード普及でルール違反が横行》都内の路線バス運転手が”加害者となる恐怖”を告白「渋滞をすり抜け、”バスに当て逃げ”なんて日常的に起きている」
NEWSポストセブン
16日の早朝に処分保留で釈放された広末涼子
《逮捕に感謝の声も出る》広末涼子は看護師に“蹴り”などの暴力 いま医療現場で増えている「ペイハラ」の深刻実態「酒飲んで大暴れ」「治療費踏み倒し」も
NEWSポストセブン
初めて沖縄を訪問される愛子さま(2025年3月、神奈川・横浜市。撮影/JMPA)
【愛子さま、6月に初めての沖縄訪問】両陛下と宿泊を伴う公務での地方訪問は初 上皇ご夫妻が大事にされた“沖縄へ寄り添う姿勢”を令和に継承 
女性セブン
中村七之助の熱愛が発覚
《結婚願望ナシの中村七之助がゴールイン》ナンバーワン元芸妓との入籍を決断した背景に“実母の終活”
NEWSポストセブン
松永拓也さん、真菜さん、莉子ちゃん。家族3人が笑顔で過ごしていた日々は戻らない。
【七回忌インタビュー】池袋暴走事故遺族・松永拓也さん。「3人で住んでいた部屋を改装し一歩ずつ」事故から6年経った現在地
NEWSポストセブン
大阪・関西万博で天皇皇后両陛下を出迎えた女優の藤原紀香(2025年4月、大阪府・大阪市。撮影/JMPA)
《天皇皇后両陛下を出迎え》藤原紀香、万博での白ワイドパンツ&着物スタイルで見せた「梨園の妻」としての凜とした姿 
NEWSポストセブン
“極度の肥満”であるマイケル・タンジ死刑囚のが執行された(米フロリダ州矯正局HPより)
《肥満を理由に死刑執行停止を要求》「骨付き豚肉、ベーコン、アイス…」ついに執行されたマイケル・タンジ死刑囚の“最期の晩餐”と“今際のことば”【米国で進む執行】
NEWSポストセブン