インタビューに応える映像作家の小泉明郎氏(撮影:横田徹)

「そこは常に摩擦が繰り返される部分で、表現者がやること全てが受け入れられるという社会は無い。好きなように全部やってしまったら社会は崩壊してしまうからです。社会を崩壊させないために法律が必要ですが、前述したように法律を作るロジックはアートを作るロジックとは重なりません。

 そのため、『表現の自由』は必ず矛盾を孕んでいます。表現の自由がなければ民主主義は成り立たない。でも、民主主義を成り立たせている法律では表現の自由の制限が必要になる、という矛盾です。

 しかも、矛盾があるからといって我々に課せられた『表現の自由』に対する責任が消えるわけではない。アーティストは表現の自由が不可能であることを知っていながら、表現の自由を体現する責任を負っています。だから我々アーティストはすごく分裂した立場にあります。それが我々の存在です」(小泉氏)

 あいちトリエンナーレでは「表現の不自由展・その後」の中止後、「検閲だ」との声が挙がり、海外作家らが抗議のため作品を引き上げるなど、波紋が広がっている。連日のようにテレビや新聞でその動向が報じられ、「中止」決定の賛否についても大きく意見が分かれている。出展作家として、小泉氏は一連の騒動をどう受け止めているのか。

「企画の中止に関し、新聞の一面や社会面、テレビのワイドショーでも大きく取り上げられました。こんな事は私が今までアーティストとして活動してきて初めてのことです。ようやく日本全体がアートに目を向けてくれたような、そんな瞬間でもある。このことは決してマイナスではない。海外ではアートと社会、アートと政治がすごく近い関係にある国もあります。日本でも、今回のことで両者がちょっと近づいたのではないかと思います」(小泉氏)

 今後は、アーティストがまとまって知恵を絞り、展覧会の再開を模索したいと小泉氏はいう。あいちトリエンナーレは10月半ばまで開催される。同展をめぐっては、まだ一波乱が起こりそうな気配だ。

【プロフィール】よこた・とおる/1971年茨城県生まれ。1997年のカンボジア内戦からカメラマンとして活動開始。アフガニスタン、イラク、シリアなど世界の紛争地を取材。著書に『戦場中毒』(文藝春秋刊)がある。

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