撮影当日も大わらわだった。早朝から忙しなく母を訪ね、「今日はSの晴れ着撮影だよ。みんなで記念写真も撮ろう」とハイテンションで誘うと、「えっそうなの? 着物はどうするのよ!」と、まるで初めて聞いたような驚きよう。
めげずに久しぶりの化粧をさせ、お気に入りのジャケットを着せてスタジオに赴いた。
撮影するのは、母もよく知る古い友人のカメラマンだ。
「まぁHさん、お久しぶりね。よろしくお願いします!」
よかった…覚えていた。知っている人ばかりの中で少し和んだが、いよいよカメラの前に立つと、母はまたキュッと表情を硬くした。
いつか娘が年を取った時、懐かしく見返す写真だ。母はちゃんと笑えているかと心配しながら、私も心して笑った。
写真の中の家族は、全員が引きつり気味だったが、「あら! みんな幸せそうな顔をしているわね」と、母は実に満足そうだった。
※女性セブン2019年10月10日号