筆者はこれまでも、特殊詐欺に関わってきた人物への取材で、同じような主張を耳にタコができるほど聞いてきた。この身勝手な主張は、年々、彼らに都合の良いように補強され、新たな若者たちを犯罪に呼び込むための「理由」として使われる。同時に、呼び込まれるのは特別な事情がある若者だけではなくなってきた。特殊詐欺事件の受け子や出し子に、不良グループですらない中高年が手を染める場合も増えている。
もはや「悪いことはやってはダメだ」という正論は、彼らには通用しないところまで来ており、富めるものと持たざる者の二極化が進む中で、こうした連中がさらに増殖することも容易に想像できよう。
「昔は、中卒とか仕事のない若い奴が、金持ちからカネぶんどって俺らで経済回して…みたいなことを言ってたんですよ。気分は「鼠小僧」でしたよ。でも最近のは違いますよ。マジで生活のためにやってる。出し受けやって一件1万とか3万とか、普通のバイトやったほうがいいじゃんって」
かつては、末端であってもそれなりに儲かるから特殊詐欺がはびこった。かけ子でも1か月にサラリーマン以上の報酬を手にすることが可能な場合もあり、夢があったと話す。大金を銀行に預けると足がつく、派手に飲み歩いたら目をつけられるからと、詐欺師の先輩に厳しく注意されたほどだ。短期間で貯めた金を元手に別事業を始め、詐欺の世界から去って行く人もいた。しかし気付けば、出し子や受け子の“報酬”は生活苦の限界より先にある、金銭的にも社会的な位置でもすべての面で割に合わない“仕事”になっていた。それでも、詐欺に関わる人はいなくならない。
犯罪に手を染めたものを捕まえ、刑務所にぶち込むだけでは何も変わらないのかもしれない。若者を、そして貧困に陥る人々をすくい上げるセーフティーネットの拡充に関する議論は、まだ十分とは言えない。経済成長を目指す前に、立ち止まって考えるべきことがないか、今一度現実と向き合う覚悟が必要だろう。