「(刑務所に)入っていたのは2年くらいっすね。横流し以外にもいろいろやってたんすけど、他はバレなかった。正直、通帳売買だけで数百(万円)、他諸々で3000(万円)は稼いでたから、すぐ弟(分)に預けて塀の中。損害賠償だって民事で訴えられたけど、自己破産したんでシカトっすね」
Kは、仮に犯罪行為をやって捕まっても、その犯罪で稼いだ金が大きければ「メリットがある」と判断する。たとえ2年間、刑務所生活で拘束されても、出所後に貯めておいた金が使えるようになる、つまり三千数百万円分の仕事をしたと思えばいい、ということだ。詐欺による被害の損害賠償請求は、詐欺を犯した本人にしか求めることができず、親族だからといって返済義務は生じない。Kの場合は本人が自己破産したため返済能力なしと判断された。ただし、事実上家族として責任を負って欲しいと求められることはあるものの、被害者は泣き寝入りするしかない。そうした実情を知っているKが続ける。
「2年ぶりに出てきて驚いたのは、(詐欺のターゲットとして)もう年寄りなら誰でもいいや、みたいになってたことっすね。金持ちだけでなく、年寄りはみんな若者よりカネ持ってっから盗っちゃえ、的な。タタキ(強盗)とか殺しとか、俺は考えられないっすけど、今の若い奴ってマジでそう思ってるし、実際そうじゃないっすか。情もクソもないっすよ」
逮捕されても金さえ稼げていれば割がよい、そして、若者は弱者なのだから金持ちや年寄りからぶん取ってもよい、こうした思考の若者が少なからず存在するからこそ、特殊詐欺が一向に減らないと、詐欺で実刑を受けた元受刑者が主張する。さらに、2年ぶりに出てきた社会では、金持ちの年寄りを狙うのではなく「年寄りなら誰でも」という風に変化していたことに驚いたというから、それほどまでに窮する人々が増えたのかもしれない。
それだけではなかった。
「出し受け(出し子と受け子を)するのがじいさんやばあさんってこともあるでしょ?昔は考えられなかったんすよ、あいつらは騙される側だったんで。金に困ってしゃーなしでやってるんでしょうけど、やっぱりみんな、自分は弱者だから多少盗ってもいいって考えてる。年齢関係ないですよ」