母ももっと気軽に泣ければいいのにと思いつつ、2人で樹木希林さん主演の映画『あん』を見に行った時のことだ。『あん』はハンセン病や人の生死など重いテーマを扱った映画だが、希林さんの軽妙な演技が、母も私も昔から大好き。認知症でどこまで楽しめるかわからないが、シーンの美しさやセリフのひと言ひと言に、母なら感動できるはずだと思った。
クライマックスで感動の波が押し寄せると、私の目頭はズーンと熱くなった。すると隣の母から鼻をすする音が。
「あれ? 泣いてるのかな」と覗き込むと、母は慌てて「鼻、出ちゃった」とごまかした。また見てはいけないものを見たような気になり、思わず目線を外した。
しかし後日、真相が明らかに。当時、あちこちで上映会が行われていて、数日後に母は再び『あん』を見たのだ。そこは認知症のよいところで何度でも初見の喜びがある。同行したスタッフによると、
「Mさん(母)、とても熱心に見ていたわよ。いい映画よね~ 泣いていらしたもの」
※女性セブン2019年11月21日号