リクルート事件で証人喚問された江副氏(時事通信フォト)
しかし私はこれを、検察によって作られた冤罪事件だと考えている。当時、大手証券の会長は私に、「社会的信用のある人たちに公開前の株を持ってもらうのは、どの企業もやっている証券業界の常識ですよ」と言った。江副は、竹下退陣を狙った検察の思惑に巻き込まれたのだ。
「無実です。私は無実だと確信しています」
裁判中の1992年、江副は私のインタビューにこう答えたが、有罪判決を受け、2013年、失意のなか亡くなった。
江副の不幸は、メディアに一切味方がいなかったことだ。ニュースや情報を作ってきたメディアは、それよりも広告に価値があるという江副の考え方に強烈な拒絶反応を示した。生前、彼を擁護したのは『正義の罠』でリクルート事件を冤罪だと書いた私だけだったはずである。
しかし彼の死後、彼を「最初のベンチャー起業家」として再評価する動きが生まれつつある。当然であろう。江副があのまま潰されずにいたら、彼はそれこそ「グーグル」を作っていたはずだ。江副の発想はそれほど飛び抜けていたし、彼がいなくなったからこそ、IT分野で日本は周回遅れになった。
新しい発想を受け入れられない日本経済の不幸である。(談)
※週刊ポスト2019年11月8・15日号