一方で、従業員のこうした苦悩を理解しつつも、特に中高年への「スマホ販売」を推し進める携帯キャリアやその販売店の姿勢をみていると、あまりに無責任ではないか、といった見解を持つ関係者もいる。大手携帯キャリアの営業職担当者の見解だ。
「ガラケー使いの中高年にスマホに乗り換えさせろ、という指示が携帯会社の全てから出されています。販売時には、あれもできるこれもできる、こんなに便利なものはないと言って乗り換えを促すのですが、それらのセールスポイントは、今回明文化されたサポート範囲対象外のサービスがほとんど。要は、いいことだけを言って売りつけておきながら、その方法について問われると”教えるけど有料ね”ということになるんです。
自分の首を絞めることにもなりかねませんが、日本の携帯キャリアの料金は高いです。無償サポートの範囲を限定し、有料サポートの範囲を拡大させるのであれば、サービスを受けなくても良いとするユーザーの料金について値下げするなどしないと、面倒な客を追い出すだけ、という風に取られても仕方ない」(大手キャリア営業担当)
日本最大の携帯キャリアが発表した「サポート有料化」。この流れは他キャリアにも大きな影響を与えることも、追随することも明白だろう。しかし、それが「客の利益を損なう」ものであったり、弱者排除では許されないだろう。とはいえ、客商売であればサービスしてもらえるという思い込みによって、何でもショップ店員に面倒をみてもらおうとする人が見過ごせないボリュームで出現しているのも現実だ。
「ほとんど暇つぶし目的で店に来ているのではないか、もしくは”カスハラ”(カスタマーハラスメント)まがいのいちゃもんをつけて何時間も居座ったり食い下がる人もいます。店舗だけではなく、コールセンターにかけてくるユーザーにも少なくない数、そういう人が存在しており現場を疲弊させている。その代償を払うのは、なにも我々だけではない。本当に困っている顧客を待たせたり、本来提供すべきサービスを提供できなくしているのですから、被害は顧客にも及んでいる」(前述の店員・Bさん)
常識的な範囲内の相談をしようともサービスが受けられないユーザーを生み出しているのなら、弱者排除よりもユーザー対応品質の改善という側面も強くなる。正当な代価を支払い、正当なサービスが受けられるよう公平なシステムを取り入れないと、結果として不幸な人が増えるだけなのだ。
東京オリンピックの誘致で「おもてなし」をアピールポイントにするなど、様々な場面における手厚いサービスは日本らしさの象徴のように言われている。一方で、過剰な無料サービスは働く人に過重労働を要求することになり、その積み重ねでサービス全体の質を落とさざるを得ない事態に発展することもある。本来の顧客サービスを充実させるためには、際限のない無料サービスの廃止は必要なことなのかもしれない。