笑福亭鶴瓶がとんでもなくいい演技をしているのは、「閉鎖病棟─それぞれの朝─」。精神科医で小説家の帚木蓬生のベストセラー小説を映画にした。舞台は長野県のとある精神科病院。吹き溜まりのなかで、それぞれの過去を背負った患者たち。母親や嫁を殺した罪で死刑となったが、死刑執行に失敗した男もその一人だ。
世界の精神医療は脱施設化を推進しているが、日本の精神医療もゆっくりとその方向に進んでいる。心の病ゆえに生きづらさを抱えた人たちをどうやって守るか。「それぞれの朝」という副題がいい。閉鎖病棟のなかの患者たちにそれぞれの朝があるだけでなく、閉鎖病棟の外の息苦しく呪縛された世界で、今を生きているぼくたちすべてに、それぞれの朝があることに気が付く。久しぶりに胸が熱くなった。
ここまで駆け足で紹介してきたが、この秋はおもしろい映画や一癖ある映画が豊作だ。レビューの星の数を参考にして、映画を見るかどうか決める人がいるそうだが、結局は見てみないとわからない。あまり考えすぎず、直観に従って、映画館で見てほしい。
●かまた・みのる/1948年生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、長野県の諏訪中央病院に赴任。現在同名誉院長。チェルノブイリの子供たちや福島原発事故被災者たちへの医療支援などにも取り組んでいる。著書に、『人間の値打ち』『忖度バカ』など多数。
※週刊ポスト2019年12月6日号