◆ステーキ文化を無視したNY進出で惨敗
2017年2月には、鳴り物入りでニューヨークに進出した。一瀬邦夫社長は「全米1000店舗展開を目指す」と高らかに宣言。2018年2月16日、ニューヨークの中心部マンハッタンの5番街近くにオープンした4号店の開店イベントには、ニューヨーク・ヤンキースなどで活躍した松井秀喜氏も駆けつけた。松井選手の背番号は55。gogoということだったらしい。一瀬邦夫社長は〈野茂(英雄)さんも松井さんも(米国で)大成功された。それにあやかりたい〉と語った。
米国で多店舗展開する資金を調達するため、2018年9月に日本の外食チェーンとして初めて米ナスダック取引所に米国預託証券(ADR)を上場した。
米国のステーキの値段は20ドル(約2200円)前後。高級店だと廉価なランチでも50ドル前後はすることを考えれば、「いきなり!ステーキ」は半額以下だが、その安さは武器にならなかった。
ニューヨーカーの低所得者は20ドルのステーキは高過ぎて手が出ないし、他方、金持ちは高級レストランで食べる。中間層だって自分たちのステーキ文化へのこだわりがある。そもそも米国人は立ってナイフとフォークを使うことを嫌がるのだ。
米国のステーキ文化を無視し、日本で流行ったからということだけで「立ち食い」を始めても客を呼び込めるわけがない。慌ててテーブル席に切り替えたが、オシャレな店舗でもないのでビジネスランチには向かず、若者がデートで使うこともなかった。一時は11店舗まで拡大したが、消費者を掴み切れず店舗を次々と閉鎖し、赤字をタレ流した。
その結果、2019年9月、米ナスダック取引所の上場を廃止。米証券取引委員会(SEC)の登録もやめた。「いきなり!ステーキ」のニューヨーク上陸は惨憺たる結果に終わった。
◆各地に格安ステーキ店が登場
一瀬社長は国内でも1000店舗を目指し、アクセルを踏み続けた。2017年以降、3か月に2ケタのペースで出店を続け、1号店誕生からわずか6年で487店(2019年10月末、フランチャイズ店を含む)まで膨張した。
確かに肉ブームが去ったわけではない。焼肉ならびにステーキのジャンルは、依然として堅調だ。しかし、「いきなり!」だけが独り負けの状態なのである。敗因のひとつは、「いきなり!」の快進撃を見て、各地にライバル店が登場してきたことも挙げられるだろう。
2018年1月、愛知県発祥のステーキ大手あさくまがメニュー構成や価格帯がほぼ同じの「やっぱりあさくま」を東京に出店。「3年で100店舗を目指す」と、一騎打ちを挑んできた。その他、ファミレス系のチェーン店もサラダバーを武器に肉を売り込む。肉ブームを背景に、各チェーンがさまざま特色を出してきたのである。これで消費者の選択肢が一気に広がり、「いきなり!」は、いきなり埋没してしまった。