ドッグトレーナーを目指す望月聖来さんと「ベルジアン・マリノア」のエリカ
「ベルジアン・シェパード・ドッグ・マリノア」はベルギー生まれの犬種で、牧場で放牧される家畜を見守る牧羊犬として知られる。集中力の高さから軍用犬や麻薬探知犬、警察犬などとして活躍することも多く、日本では極めて希少な犬種である。
同校では、講師1人と生徒およそ10名が「チーム・エリカ」を結成して、爆発物探知犬のハンドラーに必要な技術を学ぶ。爆発物探知はエリカ自身も初めて受ける訓練であり、犬と学生がお互いに初めての経験を積みながら一緒に成長していけることが、このカリキュラムの大きな特徴だ。
大の犬好きで災害救助犬など「使役犬」のトレーナーになることを夢見て同校に入学し、そこで出会ったエリカとともに充実した毎日を送る望月さんが語る。
「いまは火薬を詰めた瓶と空の瓶の嗅ぎ分けを訓練しています。個体の差かもしれませんが、ベルジアン・マリノアは同じ使役犬としてポピュラーなジャーマン・シェパードよりも繊細で神経質な印象があります。エリカにも怖がりな面がありますが少しずつ慣れていって、今では彼女がどんな気持ちでいるか何となくわかります」(望月さん)
軍用犬として厳しく育てられたコナンと違い、特別な訓練を受けずに育ったエリカは基本的に穏やかで、テロリストの息の根を止めるような獰猛さは見られない。ただし時にはベルジアン・マリノアとしての「本能」が出ることがあるという。
「訓練と遊びのオンオフの切り替えはできる子ですが、たまに隠れていた本能的なものが表に出ることがあります。最近は散歩中に学校の警備員さんに向かっていこうとして、すごい力で引っ張られることがありました。他のワンちゃんに向かうこともあるので、リードを持つ側の意識が大変です。それでもハンドラーには従順で、人間のことも好きな子ですよ」
そう語る望月さんの周りで、エリカが嬉しそうにはしゃぎ回っていた。
シリアでは決死の任務に就いた勇猛な犬種が、日本では愛らしい表情で未来ある若者とともに学ぶ。最初の恐怖心は消えてなくなり、図らずも平和の尊さを痛感することとなった「エリカ様」との対面であった。
●取材・文/池田道大(フリーライター)